空に還る。

私の家族は、壊れている。

母、二歳上の姉、私は市営アパートで暮らしていた。
父は居ない。
私が産まれる前には離婚していて、顔も知らない。

母は昼も夜も働いてくれていたけれど
家にはいろんな支払い先からの督促状が溢れていた。

まだほんの、三歳の頃の記憶。
母は夜の仕事から帰ると、
私と姉が起きてお喋りをしているだけで暴力をふるった。

小さかった私達には母のストレスや、
何が気に障るのか、分からなかった。

あんなに身を粉にして働いてくれていたけれど、
そのほとんどをギャンブルに遣っていたから生活費には回せなかったんだって、
成長するにつれて知った。

小学校に上がる頃、祖父が家を建ててくれて、
この町に引っ越してきた。

それでも生活は改善されないまま、
増えていく督促状と暴力。

私も姉も、母が居る実家には寄りつかなくなって
すぐ下の、祖父母が暮らす家にばかり寝泊まりするようになった。

実家を建ててもらって僅か一年。
小学二年生の時に、母は出ていった。

祖母は口癖のように言った。
「お前達は親に捨てたれたんだ」、と。
祖母の一言でひどく傷ついたのは、
後にも先にもその一度きりだった。

その言葉に続けて、祖母は「今日から私達がお前達の親だ」って言ってくれたから。

祖父母は愛情を持って私達を育ててくれた。
じいちゃんの膝に乗って、意味も分からない新聞を一緒に眺める時間が大好きだった。