空に還る。

「手伝ってくれてありがと。ここに置いて」

玄関で突っ掛けていたビーチサンダルを脱いで、
上がったすぐそこに一升瓶を置く。
少年もその隣に並べて置いた。

「上がって」

「姉ちゃん、上流階級か?」

「…は?」

「こげん造りの家」

「いや別に普通やろ。しかもうちの親が建てたんじゃなかし。じいちゃんが援助してくれたと」

「ふーん」

「よかけん入って。ソファ座っといて。ジュースでよかよね?アップルかオレンジかグレープかパイン。どれにする?」

冷蔵庫に押し込んでいた、お中元で貰っていた紙パックのジュースの詰め合わせを
箱ごと少年に見せた。

少年は目をパチパチさせて「アメリカか?」って言った。

「は?アメリカ?」

「そげん横文字ば喋って」

「横文字って…いや、え…?」

「なんね、これ。やっぱし上級たい」

少年は一体、どんな暮らしをしているのだろう。

私の家は少年が言うような上流階級ではない。
祖父は立派な人だった。
当時ではそれこそ一級の高等学校へ進み、
就職先も、今の時代でも大手。
家族が決して苦労をしない貯蓄を残して、
家まで建ててくれた。
本人の幼少期がとても苦労したからだと聞かせてくれたことがある。

祖父は私にとって、唯一の愛。
世の中の大人で誰よりも尊敬していたし、神様だ。