空に還る。

祖母の遺影の隣に並べられた、祖父の遺影の前で
私は一人、笑って見せる。

「なーにが″嫁さんにしとるかもしれん″、よ。ばあちゃんとラブラブやったたい」

きっちゃんがくれた名札を指先でそっと撫でる。

「中村貴市」

きっちゃんの本名。
紛れもない、私のじいちゃんの名前。

確かに、私ときっちゃんは″約束通り″、
同じ時代を生きた。

きっちゃんは死ななかった。
あまりにも凄惨で苦しい時代を乗り越えて、
初恋のみい子との愛を手に入れて、私の命まで繋いでくれた。

じいちゃんは本当に、心から立派な人だった。
一生懸命学んで、勤勉で、
それからきれいな物、楽しいこと、おいしいものをいっぱい教えてくれた。

私は思い出した。
じいちゃんの弟、(みつる)おじちゃんの家に遊びに行った時。
神棚の横に掛けられている防空頭巾のことを尋ねたら、
「長崎に原爆が落とされた日。俺の防空頭巾は破けとったけん、兄貴が貸してくれたと。これは俺の命ばい」って教えてくれたことを。