空に還る。

八月十五日、正午。

町内アナウンスのスピーカーから
町全体に鳴り響く黙祷の鐘の音。

今日から八十年前。
日本は終戦の日を迎えた。

お仏壇に供えたお線香の香りが鼻腔をくすぐる。

合鍵を使って祖父の家に上がった。
夏休みに入る前に、八月十五日に軽く掃除をしようってかのちゃんと約束していたからだ。
この日に決めたのは、やっぱり敬意、というものだろうか。

約束の時間は十三時だからまだ一時間くらいある。

かのちゃんと約束した理由は、
今年の春、祖父が亡くなったからだった。

二年前のちょうど同じくらいの時期に祖母が亡くなって、
祖父は後を追うようにして、夜眠ったっきり安らかに永眠した。

それは安らか過ぎて、
誰もが夢にみるような幸せな死だと誰もが言った。

祖母を心から愛した祖父らしい死だった。

あの日、母には姉を探し出そうと決心した理由を口止めしたけれど
そのきっかけは祖父の死だったのだと思う。

唯一、私達に愛を教えてくれていた人。
祖父の存在だけで繋がり合っていたような家庭だった。

そんな人を亡くして、
両親の中でようやく感じるものがあったのだろう。

祖父はやっぱり最期まで、家族にとっての真実の愛だった。