空に還る。

「あんず。僕はやっぱし帰りたか」

「…帰った瞬間に″悪魔″に殺されても?」

私は知っている。
一九四五年八月九日、十一時二分。
長崎に落とされた原子爆弾、ファットマンが最後だったことを。

きっちゃんが戻った時がどの瞬間に当たるかは分からないけれど
その命がファットマンに奪われなければ、きっちゃんは戦争では死なないかもしれない。
家族の安否は今は分からないけれど…。

「そいでもたい。あんずの親に今日会ってからますます思ったと。あんずは、つよぉ家族ば憎んどったけどやり直せるチャンスば授かったったい。神様はお前の幸せば諦めんでおってくれたったい。僕も諦めたくなか。あんず、お前に出逢って、家族んごと信じてくれて嬉しかった。ここにおればずっとこげん幸福ば感じられるとかもしれん。そいでもさ…僕の家族はあの日まで一緒に生きとったあの人達やけん。兄さんが、沢山の日本国民が国の為やって言い聞かせて戦ってくれよる。母さん達が、父ちゃん達が、きょうだい達が苦しか想いばこらえて、生きたか希望ば教えてくれとる。僕が願ってしまった″生きたい″って気持ちで僕だけが幸せになったらいけんとよ。だけん、僕は帰る。苦しくても生きて生きて、またここに辿り着けたら絶対に幸福の待っとるけんって教えてやりたかっさ」