それだけで、沙耶の脳裏に蘇るのはアイラ。
お母さんの双子の妹であり、行方不明になった、大樹お兄ちゃんの実の産み親、母親だ。朝陽の最愛の奥さん。
「……」
そんなことを、沙耶が頭で考えていたからだろう。
相馬がふと、沙耶を見て。
「……人質……行方不明…………もしかして、あの夜、俺が連れ出したのは」
「相馬?」
「平岡アイラ……」
沙耶は、身体の底が震えるような感覚に陥った。
どこか苦しくて、目眩がして、それで。
「─陽向さんっ、アイラさんの写真」
陽向さんがパソコンのデータから引っ張り出し、相馬に突きつける。……相馬の手が止まり、「ハハッ」と、笑う。
「…………そこまでするか」
相馬はなにかわかったのだ。そして、沙耶がそれを気にしていることにも気付いたのだ。
「─沙耶、アイラさんだ。俺があの夜、連れ出した女性は間違いなく、平岡アイラ……お前のおばさんだ」
「っ」
「かなり衰弱していて、昏睡状態だったため、今は美月の家の病院で集中治療を行ってもらっている。─そうか。誰かに似ていると思えば、ユイラさんにか」
相馬は金髪の青い瞳、お母さんに似た顔から察したらしい。検査の為、瞼をあげた際、そこには青く光る宝石が隠されていて、彼女は目覚めなかった、と。
「っ、……っ、よ、容態は」
「今のところ、急変する様子などは見られないが、深い眠りに、それこそ、希雨のような状態にはなっている。けど、絶対助ける。あとで、様子を見に行こう」
「っ、あ、わ、私、お母さん……だ、大兄……」
「大丈夫。こちらから連絡して、すぐに迎えを寄越す。─ついでに、心優の様子を見に行こう。そして、フィーが既にこちらの土地に足を踏み入れ、独自に動いていることは把握している。アクションを取り、ここへ招く」
「フィー……?」
「黒橋の街の方で、かなり活躍しているそうだよ」
─沙耶は御園家でやっていくことに精一杯で、そういえば、現状などはちゃんと把握できていなくて。
両親もいちいち話すタイプではないから、フィーも、来たなら来たって、連絡くれれば。
「……そんな不安そうな顔をするな。フィーは無事だし、何なら、お前が向こうで世話になったという、沙耶の曾祖父母も暴れているらしいぞ」
「えっ」
「普通じゃない街で、マフィアのトップ層が動いているんだ。被害なんて出るわけが無いし、元々、俺の息がかかった部隊があそこを守護している。街の人たちは、御園家のオープン前のホテルにお試し宿泊という名目で避難させている。そのホテルの職員も全員─支配人をはじめとする、キッチンスタッフから清掃員に至るまで─こちら側が鍛え上げた部隊のメンバーだ。怪しい動きをする他のお試し宿泊客がいたとしても、絶対に欺けない」
だから安心しろ、と、相馬は全てを持って、沙耶が大切にしているもの、守りたかったものを守護してくれる。


