世界はそれを愛と呼ぶ

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「……?」

目を醒ますと、異様な光景。
何とか身体を起こすと、手を伸ばし、身体を支えてくれた、温かくて、力強い手のひら。

「?」

その手の方を見ると、彼は綺麗な土下座をしていた。
そんな綺麗に頭を下げられる経験なんて無いし、普通、愛し合った夜の朝はこんな始まりじゃなくない?

少なくとも、ここ数回の経験では初めての事態であり、儀式を勝手に行ったことを怒っているのかなとか、色々心配したが、そんな雰囲気でもない。

じゃあ、何か。─……声が出づらいので、仕方なく、目と動作で『何してるの?』と問うと、それを的確に読みとった相馬が、沙耶の首元を見た。

ズキッ、と、所々痛む身体。
全身あちこちにあるアザは理性を無くしていた相馬に掴まれたもの、愛情表現の一種として刻まれたものと様々で、無言で鏡を渡され受け取れば、首元に複数の噛み傷。

(……別に噛み切られているわけでもないし、確かに多少の血は出たみたいだけど、既に止血してあるし……)

死にそうな顔をしている相馬を見て、沙耶は思わず笑ってしまう。

世界すら掌握しようと思えば出来ちゃうくせに。
たった少しの噛み傷で、そんな顔をするなんて。

(相変わらず、優しいなあ……)

口元が綻んで、沙耶は笑顔のまま、相馬に手を伸ばす。
すぐに体勢をなおし、そのまま抱き締めてくれた相馬の耳元で、「だっこ」と子供みたく甘えてみれば、相馬はいつも通り、慣れた手つきで沙耶を太ももに座らせてくれた。

見下ろすように見る彼は私以上に痛そうな顔をしていて、『大丈夫だよ』と微笑んでも、顔色は晴れない。

(埒あかないな……)

これじゃあ、少し喜んでいる私はどうなるんだ。
と、少し複雑な乙女心を持ちつつ、沙耶は相馬の耳元に再度、口を寄せ。

「こんな傷より、もっと褒めて。頑張ったんだよ?」

掠れた声でそう言えば、相馬は少し顔を綻ばせ、

「情報は全部伝わっている。─よく頑張った」

と、頭を撫でてくれた。

それが嬉しくて、彼がいない生活を思い返して、寂しくて、苦しくて、この離れていた期間で、自分がどれだけ相馬を心のよすがにしていたかを実感して、何度も泣いた。

(あの長い夜に比べたら、全然大したことないのに)

そう思いながら、相馬の額にキスをしてみる。

「……?、どうした」

「寂しかったの」

こんな傷、どうでもいいよ。もっと頂戴。
痛みがあれば、私は自分が生きているって実感できる。

あなたが、私を必要としてくれているって実感できるから、だから、申し訳なさそうにしないで欲しい。