(あっ、笑った……)

一人の女子生徒の笑顔に律の胸はキュンと音を立てる。同じ学校のブレザーを着て同じ教室にいるのに、その女子生徒だけは特別な存在に見えた。

女子生徒の名前は甘露樹里(かんろじゅり)。セミロングの茶髪に大きな目が特徴的な可愛らしい女の子だ。所属している部活は吹奏楽部で、担当楽器はトランペットである。性格は明るく、クラスの中でも目立った存在だ。

一方で律は、ゲームとアニメが大好きな世間一般でいうオタクで、同じ趣味の仲間と入学当初から一緒にいることが多い。部活も彼らと作ったゲーム・アニメ同好会で、教室では目立たない存在だ。

そんな律は真反対の世界で生きている樹里に恋をしている。きっかけは高校二年生になってすぐのこと。律は鞄につけているキーホルダーを落としてしまい、探していた。その時に樹里に話しかけられた。

「もしかして、探してるのってこれ?」

樹里が差し出したのは、間違いなく自分のキーホルダーだった。しかし、律はどこか恥ずかしくなって俯く。樹里が拾ってくれたのは、アニメの女の子のキーホルダーだったからだ。

(こんなの、絶対オタクだって馬鹿にされるじゃん……!)