「えっと、話戻しますけど。――おじさまって、わたしにとっては父親代わりみたいな存在なんですよね。だから、わたしに好きな人ができたことも、あんまり面白くないんじゃないかなって思ってたんです」
「そりゃあ、本当の娘だったらね。たとえば、珠莉に好きな男ができたとしたら、兄は――珠莉の父親は面白くないと思うよ。でも、田中さんはまだ若いし、君の〝父親代わり〟であって〝父親〟ではないから」
「はあ……、なるほど。そうですね」
純也さんの話には妙な説得力があって、愛美は納得した。
「――純也さん、色々とありがとう。なんかわたし、話を聞いてもらったらちょっとモヤモヤが晴れた気がします」
「そっか、よかった。僕なんかで愛美ちゃんの役に立てたみたいで」
「僕〝なんか〟なんて卑下して言わないで下さい。わたしは純也さんがいてくれて、すごく心強いです。――じゃあ、そろそろ失礼します。おやすみなさい」
純也さんも疲れているだろうし、あまり長居しても申し訳ない。愛美が原稿を持って、ベッドから腰を上げると……。
「あ、待って愛美ちゃん」
「……えっ?」
純也さんに呼び止められた。そして彼は顔を赤真っ赤に染めて、愛美のコットンワンピースの裾をつかんでいる。
「どうしたの? 純也さん」
困惑して、思わず敬語が飛んでしまった愛美に、純也は照れ隠しなのかボソッと問うた。本当に、聞こえるか聞こえないかくらい小さな声で。
「あの。…………キスしていいかな?」
「……は?」
(大の大人が何を言い出すのかと思ったら、そんなこと?)
愛美は面食らった。そんなの、本人に断りを入れる必要もないだろうに。
「その……、相手は未成年だし。一応、ひとこと断りを入れた方がいいかと思って」
彼の弁明を聞いて、愛美はクスクス笑い出した。
(純也さんって、ホントに律儀な人だなぁ)
三十歳にもなった男の人が、まるで中学生の男の子みたいに見えて、なんだか微笑ましかった。
そして愛美は、笑顔のままで頷いた。
「はい……!」
純也さんは愛美をもう一度ベッドに腰かけさせると、自分もその隣りに腰を下ろした。座ることにしたのは、自分と愛美との身長差を考えてのことのようだ。
愛美はそっと目を閉じた。実際の経験はないものの、小説やTVドラマなどでキスシーンの時にはそうしているのを知っていたから。
そして、純也さんは愛美の唇に優しくそっと自身の唇を重ねた。
愛美にとって初めてのキスは、ものの数秒で終わったけれど。彼女はそれだけで何だか幸せな気持ちになった。
でも心臓はバクバクいっているし、同時にかぁっと顔が火照っていくのも感じていた。
「ありがと、愛美ちゃん。じゃあ、おやすみ」
愛美の柔らかい黒髪を指先で撫でながら、純也さんがそう言うのが彼女には聞こえた。
「……おやすみなさい」
愛美はしばらく金魚みたいに口をパクパクさせていたけれど、やっとそれだけ言って自分の部屋に戻っていった。
自分の部屋のベッドでしばらくゴロゴロと寝返りを打っていた愛美だけれど、まだ心臓の鼓動はおさまらず、なかなか寝付けない。
「う~~~~っ、寝られない……」
これまで、心配ごとが原因で眠れなくなることはあったけれど、幸せすぎて眠れなくなったのは初めてかもしれない。
「コレがよく恋愛小説に出てくる、〝恋煩い〟ってヤツなのかな……」
愛美は目を閉じて、さっきキスしてくれた純也さんの唇の感触や、髪を撫でてくれた時の彼の指の感覚を思い浮かべていた。
彼は今、隣りの部屋で何をしているんだろう? 彼もまた、愛美の事を考えてくれているんだろうか――。
「~~~~っ! ダメ、眠れない! ……よしっ! こんな時こそ、おじさまに手紙を書くべきだよね」
時間は有効に使わなければ! 愛美はベッドからガバッと起き上がり、机に向かってだいぶ中身が薄くなってきたレターパッドを広げた。
****
『拝啓、あしながおじさん。
今日はわたしにとって、忘れられない日になりました。特に夜から色々あって……。さて、何から書こう?
夕食後、わたしは純也さんと二人で近くの川にホタルを見に行きました。
純也さんはその時、わたしに言ってくれました。「ホタルっていうのは、亡くなった人の魂が生まれ変わったものなんだ」って。「だから、ここにいるホタルの中に、わたしの亡くなった両親がいるかもしれないね」って。
わたしもそう思いました。きっと、わたしの両親もあの場所にいて、わたしのことを見守ってくれてたんだって。
そしてわたしは、そこで思いきって純也さんに告白しました。男の人に自分の想いを伝えるなんて初めてだったから、最初はどう伝えていいか分からなくて途中で詰まってしまったけど、でもちゃんと最後まで伝えられました。
そしたらね、おじさま。純也さんもわたしに「好きだよ」って言ってくれたんです! 「付き合ってほしい」って! もちろん、わたしはOKしました。
初めての恋が、ついに実ったんです! やったぁ☆ わたし今、すごく幸せです!!
そして彼は、なんと五月からわたしと付き合ってるつもりだったって言うんです! さやかちゃんからは「そうなんじゃないか」って言われてましたけど、まさかその通りだったなんて……! わたし、ビックリしました!
夜九時ごろになって、わたしは純也さんのお部屋を訪ねました。公募に出す小説一作を、純也さんに決めてもらうためです。
「そりゃあ、本当の娘だったらね。たとえば、珠莉に好きな男ができたとしたら、兄は――珠莉の父親は面白くないと思うよ。でも、田中さんはまだ若いし、君の〝父親代わり〟であって〝父親〟ではないから」
「はあ……、なるほど。そうですね」
純也さんの話には妙な説得力があって、愛美は納得した。
「――純也さん、色々とありがとう。なんかわたし、話を聞いてもらったらちょっとモヤモヤが晴れた気がします」
「そっか、よかった。僕なんかで愛美ちゃんの役に立てたみたいで」
「僕〝なんか〟なんて卑下して言わないで下さい。わたしは純也さんがいてくれて、すごく心強いです。――じゃあ、そろそろ失礼します。おやすみなさい」
純也さんも疲れているだろうし、あまり長居しても申し訳ない。愛美が原稿を持って、ベッドから腰を上げると……。
「あ、待って愛美ちゃん」
「……えっ?」
純也さんに呼び止められた。そして彼は顔を赤真っ赤に染めて、愛美のコットンワンピースの裾をつかんでいる。
「どうしたの? 純也さん」
困惑して、思わず敬語が飛んでしまった愛美に、純也は照れ隠しなのかボソッと問うた。本当に、聞こえるか聞こえないかくらい小さな声で。
「あの。…………キスしていいかな?」
「……は?」
(大の大人が何を言い出すのかと思ったら、そんなこと?)
愛美は面食らった。そんなの、本人に断りを入れる必要もないだろうに。
「その……、相手は未成年だし。一応、ひとこと断りを入れた方がいいかと思って」
彼の弁明を聞いて、愛美はクスクス笑い出した。
(純也さんって、ホントに律儀な人だなぁ)
三十歳にもなった男の人が、まるで中学生の男の子みたいに見えて、なんだか微笑ましかった。
そして愛美は、笑顔のままで頷いた。
「はい……!」
純也さんは愛美をもう一度ベッドに腰かけさせると、自分もその隣りに腰を下ろした。座ることにしたのは、自分と愛美との身長差を考えてのことのようだ。
愛美はそっと目を閉じた。実際の経験はないものの、小説やTVドラマなどでキスシーンの時にはそうしているのを知っていたから。
そして、純也さんは愛美の唇に優しくそっと自身の唇を重ねた。
愛美にとって初めてのキスは、ものの数秒で終わったけれど。彼女はそれだけで何だか幸せな気持ちになった。
でも心臓はバクバクいっているし、同時にかぁっと顔が火照っていくのも感じていた。
「ありがと、愛美ちゃん。じゃあ、おやすみ」
愛美の柔らかい黒髪を指先で撫でながら、純也さんがそう言うのが彼女には聞こえた。
「……おやすみなさい」
愛美はしばらく金魚みたいに口をパクパクさせていたけれど、やっとそれだけ言って自分の部屋に戻っていった。
自分の部屋のベッドでしばらくゴロゴロと寝返りを打っていた愛美だけれど、まだ心臓の鼓動はおさまらず、なかなか寝付けない。
「う~~~~っ、寝られない……」
これまで、心配ごとが原因で眠れなくなることはあったけれど、幸せすぎて眠れなくなったのは初めてかもしれない。
「コレがよく恋愛小説に出てくる、〝恋煩い〟ってヤツなのかな……」
愛美は目を閉じて、さっきキスしてくれた純也さんの唇の感触や、髪を撫でてくれた時の彼の指の感覚を思い浮かべていた。
彼は今、隣りの部屋で何をしているんだろう? 彼もまた、愛美の事を考えてくれているんだろうか――。
「~~~~っ! ダメ、眠れない! ……よしっ! こんな時こそ、おじさまに手紙を書くべきだよね」
時間は有効に使わなければ! 愛美はベッドからガバッと起き上がり、机に向かってだいぶ中身が薄くなってきたレターパッドを広げた。
****
『拝啓、あしながおじさん。
今日はわたしにとって、忘れられない日になりました。特に夜から色々あって……。さて、何から書こう?
夕食後、わたしは純也さんと二人で近くの川にホタルを見に行きました。
純也さんはその時、わたしに言ってくれました。「ホタルっていうのは、亡くなった人の魂が生まれ変わったものなんだ」って。「だから、ここにいるホタルの中に、わたしの亡くなった両親がいるかもしれないね」って。
わたしもそう思いました。きっと、わたしの両親もあの場所にいて、わたしのことを見守ってくれてたんだって。
そしてわたしは、そこで思いきって純也さんに告白しました。男の人に自分の想いを伝えるなんて初めてだったから、最初はどう伝えていいか分からなくて途中で詰まってしまったけど、でもちゃんと最後まで伝えられました。
そしたらね、おじさま。純也さんもわたしに「好きだよ」って言ってくれたんです! 「付き合ってほしい」って! もちろん、わたしはOKしました。
初めての恋が、ついに実ったんです! やったぁ☆ わたし今、すごく幸せです!!
そして彼は、なんと五月からわたしと付き合ってるつもりだったって言うんです! さやかちゃんからは「そうなんじゃないか」って言われてましたけど、まさかその通りだったなんて……! わたし、ビックリしました!
夜九時ごろになって、わたしは純也さんのお部屋を訪ねました。公募に出す小説一作を、純也さんに決めてもらうためです。



