拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】

「ちょうどいいや。写真撮って、SNSにアップしよ♪」

「あー、それいいね」

 愛美とさやかはクレープとタピオカミルクティーを並べてスマホで撮影し、さっそくSNSに載せた。

「……なんか以外だな。愛美ちゃんも、SNS映えとか気にするんだ?」

「毎回ってワケじゃないですよ。今回は初タピオカ記念で」

 純也さんの疑問に、愛美はちょっと照れ臭そうに答える。流行に疎いということと、流行に興味がないこととは別なのだ。

「純也さん、……引きました?」

 (うわ)ついた女の子に見えたかもしれないと、愛美は気にしたけれど。

「いや、別に引かないよ。ただ、君もやっぱり今時の女子高生なんだなーと思っただけだ」

「……そうですか」

 その言葉を、愛美はどう受け取っていいのか迷った。「女子高生らしくて可愛い」という意味なのか、「すっかり世慣れしてる」という意味なのか。
 ……愛美としては、前者の意味であってほしい。

 愛美とさやかの二人が満足のいく写真をアップできたところで、四人はクレープにかぶりついた。

「「「お~いし~~い☆」」」

「うま~い!」

「ばななチョコ、とろける~♪ ホイップもいい感じだねー」

「ねー☆ やっぱチョコはテッパンだねー」

 最後の感想は、もちろんチョコ好きのさやかである。他にも美味しそうなクレープが何種類かあった中で、何の迷いもなくチョコ系を選んだのがいかにも彼女らしい。

「ツナチーズもいけますわよ」

「えっ、マジ? 一口ちょうだい! あたしのも一口あげるから」

「……そっちは太りそうだからいいですわ」

 さやかと珠莉は、お互いのメニューをシェアし始める。 

「――純也さん、美味しいですか?」

「うん、うまいよ」

 愛美が感想を訊ねると、純也さんは子供みたいにホイップがついた口を拭いながら答えた。

(純也さん、可愛い)

 愛美は彼の姉になったような気持ちで、またクレープをかじった。
 すると、横からズズーッと何かをすする音がして――。

「――あまっ! タピオカミルクティーってこんなに甘かったのか」

 タピオカ初体験の純也さんが、あまりの甘ったるさに眉をしかめていた。

「そんなに甘いですか? ……うわ、ホントだ」

 愛美も甘いものが大好きだけれど、ここまで甘ったるいのはちょっと苦手だ。こんなに甘ったるいものが、よく人気があるなと思う。

「ホントはソーダみたいなサッパリしたドリンクの方が合うんだけどね。色もキレイだから映えるし」

「えっ、そうなの? じゃあ、そっちにすればよかったかな」

 炭酸が入っている方が、後味スッキリで飲みやすかっただろう。

「でも、コレはコレでいい記念になったから、まあいいかな」

 一ついい勉強になったからよしとしようと愛美は思った。「タピオカミルクティーは甘ったるい」と。

(それに、大好きな純也さんと一緒に飲めたし)

 思い出とは〝何を〟飲んだり食べたりしたかではなく、〝誰と〟が大事なんだと思う。大好きな人と、同じ経験を共有できたことが何よりの思い出になるのだ。

「――ふーっ、お腹いっぱいになったね。じゃあ純也さん、あたしたちそろそろ帰ります。今日はお世話になりました」

「叔父さま、今日はありがとうございました」

 原宿駅の前まで純也さんに送ってもらい、三人はそこで彼と別れた。
 さやかと珠莉は彼にお礼を言い、すぐにでも帰りそうな雰囲気だったけれど、愛美は彼との別れがまだ名残(なごり)惜しかった。

「愛美ちゃん、今日は楽しかったね。連絡先、教えてくれてありがとう」

「……はい」

「じゃあ、また連絡するよ」

「はい! ……あ、じゃなくて。わたしから連絡してもいい……ですか?」

 恋愛初心者にしては大胆なことを、愛美は思いきって言ってみた。
 今度こそ、引かれたらどうしよう? ――愛美は言ってしまってから後悔したけれど。

「うん、もちろん。待ってるよ」

「はぁー……、よかった。じゃあ、また」

「うん。気をつけて帰ってね」

 愛美は純也さんに大きく頭を下げ、二人の親友と一緒に改札口へ。

「――さやかちゃん、珠莉ちゃん。今日、すっごく楽しかったね」

 帰りの電車の中で、愛美は二人のどちらにとなく話しかけた。

「うん、そうだね。初めて好きな人にプレゼントもらって、初めて劇場に行って、好きな人と連絡先交換してもらって、そんでもって初タピ? 盛りだくさんじゃん」

「……もう! さやかちゃんってば、列挙しないでよ」

 一つ一つはいい思い出だけれど、順番に挙げられると色々ありすぎて目まぐるしい日だった。

 特に愛美自身、大胆すぎると思った言動が多すぎて、思い出しただけでも顔から火を噴きそうなのだ。

「でも、そのおかげで恋も一歩前進したじゃん。よかったんじゃない?」

「う……、それは……まあ」

「っていうか、純也さんのアレってさぁ、『付き合ってほしい』って意味だったんじゃないの?」

「…………」

 さやかの衝撃発言に、愛美は電車内の天井を仰いだ。

「違う……んじゃないかなぁ。ちゃんと言われたワケじゃないし、わたしも告白してないし」

 恋愛が始まる時、キチンとお互いに想いを伝えあって、「ここからがスタートだ」とラインを引けるのが愛美の理想なのだけれど。

「愛美はカタチにこだわりすぎなんだよ。友達から恋愛に発展したりとか、ただ連絡取り合うだけの関係から始まる恋愛もあるんだよ?」

「そうかもしれないけど……。わたし、純也さんより十三歳も年下なんだよ? 姪の珠莉ちゃんと同い年なんだよ? そんなコと付き合いたいとか思うかなぁ?」

 愛美はまだ未成年だし、ヘタをすれば犯罪にもなりかねない。もしそうならないとしても、周りから〝ロリコン〟だと思われたりするんじゃないだろうか?