この恋は妄想じゃありません

「抱きしめていい?」



そう聞いてきたけど、返事をする前に私の体は三琴くんに抱きつかれていた。



まだまだ慣れないこの距離感。



「三琴くん、ほっぺにクリームついてるよ」


「とって」



彼の頬にケーキのクリームがついていることに気づき指摘したらとってといわれた。



ティッシュを1枚とって拭き取ろうとする。



だけど、その手は三琴くんによって振り払われた。



「キスしてとって」


「…は?」


「照れた、可愛い」



また今日も後輩にからかわれた。



私だって先輩の威厳があるんだと、緊張しながら三琴くんのほっぺにキスを落とす。



本当にされるとは思ってなかったみたいで、目をまんまるにしている。



どうやら今日は私が1枚上手だと思った。



だけど、その瞬間。



唇に柔らかいものが押し付けられた。



「…!」


「隙あり」



結局、三琴くんの方が1枚上手だったみたいだ。



「莉紗先輩、大好き」


「私も」



ちょっと前まで家にこもって小説を書くだけの毎日だった。



それが1人の生意気な後輩によってこんなに鮮やかになった。



───────本物の恋をしたら小説で書くより少女漫画を読むよりずっとずっと胸が高鳴った。