「こちらです、どうぞ」
「ありがとうございます」
ドアを開けてくれる長谷部にお礼を言って、めぐと弦は部屋に足を踏み入れる。
ちょうど正面にキャナルガーデンが見えるツインルームだった。
「今、コーヒーを淹れますね。ソファへどうぞ」
「いえ、私がやります。長谷部さんこそ座っててください」
「雪村さんはゲストですから」
結局互いに譲らず、一緒にドリップコーヒーを淹れる。
「長谷部さん、すごく丁寧に淹れるんですね。私、せっかちだからお湯をギリギリまでどんどん注いじゃいます」
「ホテルでは研修通りに淹れますから。時間をかけてじっくり淹れると美味しくなりますよ。なんて言って、私もうちではインスタンスの粉にお湯を一気に注いで飲んでますけどね」
「へえ。長谷部さんはプライベートでもきちんと振る舞ってそうに見えます」
「とんでもない。うちではかなりダラダラしてますよ」
「そうなんですね、ふふっ。想像出来ないですけど」
そんなことを話しながらコーヒーを3人分淹れて、ソファに座る。
「早速ですが、ホテルのロビーの見取り図がこちらです。エントランスを出て、この辺りがキャナルガーデンですね」
長谷部がローテーブルに広げた図を、めぐと弦も覗き込む。
「宿泊ゲストのフロントへの導線を確保しつつ、ショーの時間に合わせてこのエリアを開放しましょう」
そう言って長谷部が赤ペンで図に書き込んだ。
「ありがとうございます。この逃がしスペースも一方通行に出来ますか?」
弦が尋ねると長谷部は頷いてまたペンを走らせる。
「はい。このドアを入り口専用、こちらを出口専用にします。スタッフを配置して誘導させますね」
「助かります。そうするとキャナルガーデン周辺は今日と同じく時計回りにして、ゲストは横一列に並んで鑑賞してもらいましょう。これを何列か作って、一番後ろのスペースは立ち止まらず移動する為の場所に」
「そうですね。そこも時計回りの一方通行で」
長谷部が赤ペンで矢印を書き込んでいくのを見て、めぐが口を開いた。
「でも今夜の混雑状況から言って、開始時間前にはこのエリアは埋まってしまいますよね?」
「そうなると思います。安全の為にも、入場はストップすることになるかと」
「そのあとゲストにはなんてご案内すれば?キャナルガーデンに入れなければ、ショーは花火しか見えなくなりますよね?」
「うーん、それは致し方ないかと」
長谷部の言葉に「そうなんですけど……」と言って、めぐは考え込む。
「氷室くん。明日企画課にこの対策を伝えに行く時に提案してもいい?ショーを20時と21時の2回公演に増やしてくれないかって」
えっ!と、弦と長谷部が驚く。
「めぐ、本気で言ってる?」
「もちろん。だってゲストはこのショーを楽しみに来てくれるのよ?それを『満員だから観られません』なんて門前払いしたくない。考えてみて。環奈ちゃんみたいに初めてのデートでわくわくしながら来てくれるカップルもいる。二人の大切なクリスマスを台無しにしたくないの。お願い!氷室くんは何も言わなくていい。私が企画課に頼むから」
シンと沈黙が広がる。
めぐが真剣に弦を見つめていると、やがて弦はふっと頬を緩めた。
「分かった。俺も一緒に頼み込む」
「ほんと!?」
「ああ。ゲストのクリスマスの思い出がかかってるもんな。やれることは全部やろう」
「うん!」
嬉しそうな笑顔を浮かべるめぐに、弦も大きく頷いてみせた。
「私も陰ながら応援しています」
長谷部はそう言うと、腕時計に目を落とす。
「もう10時なんですね。すっかり遅くなってしまいました。すぐに夕食をご用意しますね」
内線電話をかけてムールサービスを手配すると、長谷部は二人を振り返る。
「それでは私は業務に戻ります。明日のショーも無事に終えられるよう、お二人にはお力を貸していただきたい。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。長谷部さん、色々ありがとうございました」
弦の横でめぐも頭を下げた。
「それでは氷室さん、雪村さん、また明日。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
「ありがとうございます」
ドアを開けてくれる長谷部にお礼を言って、めぐと弦は部屋に足を踏み入れる。
ちょうど正面にキャナルガーデンが見えるツインルームだった。
「今、コーヒーを淹れますね。ソファへどうぞ」
「いえ、私がやります。長谷部さんこそ座っててください」
「雪村さんはゲストですから」
結局互いに譲らず、一緒にドリップコーヒーを淹れる。
「長谷部さん、すごく丁寧に淹れるんですね。私、せっかちだからお湯をギリギリまでどんどん注いじゃいます」
「ホテルでは研修通りに淹れますから。時間をかけてじっくり淹れると美味しくなりますよ。なんて言って、私もうちではインスタンスの粉にお湯を一気に注いで飲んでますけどね」
「へえ。長谷部さんはプライベートでもきちんと振る舞ってそうに見えます」
「とんでもない。うちではかなりダラダラしてますよ」
「そうなんですね、ふふっ。想像出来ないですけど」
そんなことを話しながらコーヒーを3人分淹れて、ソファに座る。
「早速ですが、ホテルのロビーの見取り図がこちらです。エントランスを出て、この辺りがキャナルガーデンですね」
長谷部がローテーブルに広げた図を、めぐと弦も覗き込む。
「宿泊ゲストのフロントへの導線を確保しつつ、ショーの時間に合わせてこのエリアを開放しましょう」
そう言って長谷部が赤ペンで図に書き込んだ。
「ありがとうございます。この逃がしスペースも一方通行に出来ますか?」
弦が尋ねると長谷部は頷いてまたペンを走らせる。
「はい。このドアを入り口専用、こちらを出口専用にします。スタッフを配置して誘導させますね」
「助かります。そうするとキャナルガーデン周辺は今日と同じく時計回りにして、ゲストは横一列に並んで鑑賞してもらいましょう。これを何列か作って、一番後ろのスペースは立ち止まらず移動する為の場所に」
「そうですね。そこも時計回りの一方通行で」
長谷部が赤ペンで矢印を書き込んでいくのを見て、めぐが口を開いた。
「でも今夜の混雑状況から言って、開始時間前にはこのエリアは埋まってしまいますよね?」
「そうなると思います。安全の為にも、入場はストップすることになるかと」
「そのあとゲストにはなんてご案内すれば?キャナルガーデンに入れなければ、ショーは花火しか見えなくなりますよね?」
「うーん、それは致し方ないかと」
長谷部の言葉に「そうなんですけど……」と言って、めぐは考え込む。
「氷室くん。明日企画課にこの対策を伝えに行く時に提案してもいい?ショーを20時と21時の2回公演に増やしてくれないかって」
えっ!と、弦と長谷部が驚く。
「めぐ、本気で言ってる?」
「もちろん。だってゲストはこのショーを楽しみに来てくれるのよ?それを『満員だから観られません』なんて門前払いしたくない。考えてみて。環奈ちゃんみたいに初めてのデートでわくわくしながら来てくれるカップルもいる。二人の大切なクリスマスを台無しにしたくないの。お願い!氷室くんは何も言わなくていい。私が企画課に頼むから」
シンと沈黙が広がる。
めぐが真剣に弦を見つめていると、やがて弦はふっと頬を緩めた。
「分かった。俺も一緒に頼み込む」
「ほんと!?」
「ああ。ゲストのクリスマスの思い出がかかってるもんな。やれることは全部やろう」
「うん!」
嬉しそうな笑顔を浮かべるめぐに、弦も大きく頷いてみせた。
「私も陰ながら応援しています」
長谷部はそう言うと、腕時計に目を落とす。
「もう10時なんですね。すっかり遅くなってしまいました。すぐに夕食をご用意しますね」
内線電話をかけてムールサービスを手配すると、長谷部は二人を振り返る。
「それでは私は業務に戻ります。明日のショーも無事に終えられるよう、お二人にはお力を貸していただきたい。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。長谷部さん、色々ありがとうございました」
弦の横でめぐも頭を下げた。
「それでは氷室さん、雪村さん、また明日。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」



