「氷室さん、雪村さん」

やがてホテルのロビーも落ち着きを取り戻し、長谷部が近づいてきた。

「長谷部さん、色々ありがとうございました。これ、お返しします」

弦がスピーカーとジャンパーを手渡す。

「こちらこそ、ありがとうございました。あっと言う間に混雑が増してきて収集がつかなくなり、肝を冷やしました。氷室さんがいてくださって、本当に助かりました」
「いえ。長谷部さんがロビーをすぐに開放してくださったおかげです。とにかく何事もなくて良かった。明日からはきちんと事前対策を取ります」
「そうですね、ホテルでもスタッフを割り当てて通路や逃がしスペースを確保します。早速これから導線を考えますね」

すると弦は少し考える素振りのあと、長谷部に尋ねた。

「長谷部さん、このあとお時間ありますか?実は私、今夜のショーをホテルから撮影しようとひと部屋予約していたんです。客室で明日のショーの対策についてお話し出来ればと」
「そうなのですね!かしこまりました。すぐにチェックインの手続きをします。夕食もお部屋にご用意しますので」

そう言うと長谷部はすぐさまフロントへと踵を返す。

「めぐも残ってくれるか?出来れば今日中に対策を決めて、明日の朝には企画課に話をしに行きたい」

弦に聞かれてめぐは頷く。

「うん、大丈夫。でも結局、今日は撮影出来なかったね」
「そうだな。明日、ホテルの通路から撮影させてもらえるか、長谷部さんに聞いてみよう」
「そうね」

しばらくすると、ルームキーを手に長谷部が戻って来た。

「お待たせいたしました。本日より2泊でご用意しております」

え?と弦は首を傾げる。

「1泊しか予約していませんけど」
「氷室さん、今夜はゲストの誘導でショーの撮影が出来なかったですよね?私の権限でもう1泊ご用意しました。明日、お部屋から撮影してください」
「でも、クリスマスで満室では?」
「実はクリスマスはトラブルが予測される為、予備の部屋を確保していたんです。氷室さんのおかげで、ホテルのゲストも怪我やトラブルなく無事でした。お礼も兼ねてどうぞお使いください」
「えっ、本当にいいんですか?」
「もちろんです。ではお部屋にご案内しますね」

スタスタと歩き始めた長谷部に、弦とめぐも顔を見合わせてからついて行った。