「わあ、すごいね。平日なのにこの混雑具合」
「ああ。夜の方が昼間より混んでるな。仕事帰りのカップルも多そうだ」
いつもなら5分ほどで到着するキャナルガーデンだが、今夜はなかなかたどり着けない。
ギュウギュウと人波にもまれながら進む。
「氷室くん、背が高いから頭ひとつ出てて涼しげだね。……わっ!」
隣の男性に寄りかかられて、めぐはバランスを崩す。
弦が腕を伸ばし、めぐを自分の胸の前に抱き寄せた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「危ないから離れるな」
弦はめぐを腕の中にかばいながら、少しずつ前へと進む。
だがキャナルガーデンが見えてくると、あまりの人の多さに驚いた。
「これ、かなり危険だな。もっと大勢のスタッフが仕切らないとドミノ倒しになる。事務所に連絡してくるから、めぐはホテルで待ってろ」
そう言ってめぐの肩を抱いたままホテルに向かおうとした弦は、更に驚いて目を見開く。
「ホテルにも人が殺到してる」
「本当だ。あ、長谷部さんが誘導してる」
「ああ、だけど追いついてないな。めぐ、俺から離れるなよ」
「うん」
弦はしっかりとめぐの肩を抱くと、人の間を縫うようにして長谷部に近づいた。
「長谷部さん!」
「氷室さん!雪村さんも」
「長谷部さん、スピーカーとスタッフジャンパーを貸してください。今、事務所に連絡して応援を要請します」
「分かりました」
弦と長谷部はそれぞれスマートフォンを取り出して電話をかける。
しばらくすると、スタッフジャンパーとワイヤレススピーカーを手にしたホテルスタッフが、必死の形相で近づいてきた。
受け取った長谷部が、弦に手渡す。
「氷室さん!これを」
「ありがとうございます。長谷部さん、ホテルのロビーを半分開放してください。逃がしスペースにします」
「分かりました」
弦はスタッフジャンパーを羽織り、スピーカーのヘッドセットをつけるとめぐを振り返った。
「めぐ、危ないから長谷部さんのそばにいろ」
「でも……。氷室くん一人で大丈夫なの?」
「当たり前だ。いい子で待ってろ」
めぐの頭をクシャッとなでてから、弦は人の間をすり抜けてキャナルガーデンの中央に向かう。
「お客様にご案内します。これよりキャナルガーデン周辺は一方通行とさせていただきます。時計回りにご移動をお願いいたします」
ひときわ背の高い弦が大きく手で誘導しながらマイクで呼びかけると、ゲストは弦に注目した。
「押し合うと危険ですので、ゆっくりとお進みください。また、後方のホテルロビーを開放しております。身動きが取れない方は、後ろの方から順にホテルへとお進みください」
少しずつ人の流れが動き出し、ホテルのロビーに入って来た人達はホッと息をつく。
「あー、すごかった。もみくちゃだったよね」
「うん。両方からグイグイ押されて、なんか怖かった」
「良かったね、あのスタッフの人が仕切り出してくれて」
そんな話を聞いていると、めぐのスマートフォンに弦から電話がかかってきた。
「もしもし、氷室くん?」
めぐは遠くに見える弦の姿を見つめながら電話に出た。
「めぐ、ショーの開始時間を遅らせた方がいいかもしれない。連絡してくれるか?」
「分かった。すぐかけるね」
めぐは一旦電話を切ると、ショーを取り仕切る企画課に電話をかける。
「もしもし、広報課の雪村です。今キャナルガーデンにいますが、ゲストが多すぎて危険な状況です。ショーの開始を遅らせることをご検討ください」
「えー、そんなこと気安く出来ないよ。それにあと5分で始まるよ?」
電話口の相手は、恐らく事務所にいて現場の状況を知らない。
めぐは意を決してスマートフォンを握りしめた。
「何かあってからでは遅いです。直ちに場内アナウンスを入れて、開始を5分遅らせてください。広報課の雪村の判断だと言ってくださって結構ですから。お願いします!」
「うーん、分かったよ。部長に言ってみる」
「はい、お願いします」
電話を切ると、祈るように手を組んだ。
弦は必死に声を張り、ゲストの流れをスムーズに取り仕切っている。
だがここでショーが始まれば、皆は一斉にショーに見とれてまた押し合いが始まるかもしれない。
落ち着いて整列した状態でなければ、ショーの開催は危険だ。
「お願い、遅らせて……」
めぐは祈るように時計を見つめる。
開始時間まで1分を切った。
(どうしよう、このままじゃ……)
その時、ふいに園内のスピーカーからアナウンスの声が聞こえてきた。
「お客様にご案内申し上げます。本日20時より開催予定のクリスマスナイトショーは、会場内混雑の為、開始を5分遅らせていただきます。お客様の安全の為、どうぞご理解ください。スタッフの誘導に従って、ゆっくりとお進みください。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます」
めぐは顔を上げて弦を見る。
(氷室くん!やった!)
弦もめぐに視線を向けると、親指を立てて頷いた。
「ああ。夜の方が昼間より混んでるな。仕事帰りのカップルも多そうだ」
いつもなら5分ほどで到着するキャナルガーデンだが、今夜はなかなかたどり着けない。
ギュウギュウと人波にもまれながら進む。
「氷室くん、背が高いから頭ひとつ出てて涼しげだね。……わっ!」
隣の男性に寄りかかられて、めぐはバランスを崩す。
弦が腕を伸ばし、めぐを自分の胸の前に抱き寄せた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「危ないから離れるな」
弦はめぐを腕の中にかばいながら、少しずつ前へと進む。
だがキャナルガーデンが見えてくると、あまりの人の多さに驚いた。
「これ、かなり危険だな。もっと大勢のスタッフが仕切らないとドミノ倒しになる。事務所に連絡してくるから、めぐはホテルで待ってろ」
そう言ってめぐの肩を抱いたままホテルに向かおうとした弦は、更に驚いて目を見開く。
「ホテルにも人が殺到してる」
「本当だ。あ、長谷部さんが誘導してる」
「ああ、だけど追いついてないな。めぐ、俺から離れるなよ」
「うん」
弦はしっかりとめぐの肩を抱くと、人の間を縫うようにして長谷部に近づいた。
「長谷部さん!」
「氷室さん!雪村さんも」
「長谷部さん、スピーカーとスタッフジャンパーを貸してください。今、事務所に連絡して応援を要請します」
「分かりました」
弦と長谷部はそれぞれスマートフォンを取り出して電話をかける。
しばらくすると、スタッフジャンパーとワイヤレススピーカーを手にしたホテルスタッフが、必死の形相で近づいてきた。
受け取った長谷部が、弦に手渡す。
「氷室さん!これを」
「ありがとうございます。長谷部さん、ホテルのロビーを半分開放してください。逃がしスペースにします」
「分かりました」
弦はスタッフジャンパーを羽織り、スピーカーのヘッドセットをつけるとめぐを振り返った。
「めぐ、危ないから長谷部さんのそばにいろ」
「でも……。氷室くん一人で大丈夫なの?」
「当たり前だ。いい子で待ってろ」
めぐの頭をクシャッとなでてから、弦は人の間をすり抜けてキャナルガーデンの中央に向かう。
「お客様にご案内します。これよりキャナルガーデン周辺は一方通行とさせていただきます。時計回りにご移動をお願いいたします」
ひときわ背の高い弦が大きく手で誘導しながらマイクで呼びかけると、ゲストは弦に注目した。
「押し合うと危険ですので、ゆっくりとお進みください。また、後方のホテルロビーを開放しております。身動きが取れない方は、後ろの方から順にホテルへとお進みください」
少しずつ人の流れが動き出し、ホテルのロビーに入って来た人達はホッと息をつく。
「あー、すごかった。もみくちゃだったよね」
「うん。両方からグイグイ押されて、なんか怖かった」
「良かったね、あのスタッフの人が仕切り出してくれて」
そんな話を聞いていると、めぐのスマートフォンに弦から電話がかかってきた。
「もしもし、氷室くん?」
めぐは遠くに見える弦の姿を見つめながら電話に出た。
「めぐ、ショーの開始時間を遅らせた方がいいかもしれない。連絡してくれるか?」
「分かった。すぐかけるね」
めぐは一旦電話を切ると、ショーを取り仕切る企画課に電話をかける。
「もしもし、広報課の雪村です。今キャナルガーデンにいますが、ゲストが多すぎて危険な状況です。ショーの開始を遅らせることをご検討ください」
「えー、そんなこと気安く出来ないよ。それにあと5分で始まるよ?」
電話口の相手は、恐らく事務所にいて現場の状況を知らない。
めぐは意を決してスマートフォンを握りしめた。
「何かあってからでは遅いです。直ちに場内アナウンスを入れて、開始を5分遅らせてください。広報課の雪村の判断だと言ってくださって結構ですから。お願いします!」
「うーん、分かったよ。部長に言ってみる」
「はい、お願いします」
電話を切ると、祈るように手を組んだ。
弦は必死に声を張り、ゲストの流れをスムーズに取り仕切っている。
だがここでショーが始まれば、皆は一斉にショーに見とれてまた押し合いが始まるかもしれない。
落ち着いて整列した状態でなければ、ショーの開催は危険だ。
「お願い、遅らせて……」
めぐは祈るように時計を見つめる。
開始時間まで1分を切った。
(どうしよう、このままじゃ……)
その時、ふいに園内のスピーカーからアナウンスの声が聞こえてきた。
「お客様にご案内申し上げます。本日20時より開催予定のクリスマスナイトショーは、会場内混雑の為、開始を5分遅らせていただきます。お客様の安全の為、どうぞご理解ください。スタッフの誘導に従って、ゆっくりとお進みください。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます」
めぐは顔を上げて弦を見る。
(氷室くん!やった!)
弦もめぐに視線を向けると、親指を立てて頷いた。



