「めぐ、遅くなったから車で送って行く」

長谷部に挨拶してホテルを出ると、23時を回っていた。
美しく彩られたパークの夜景を見ながら歩いていると、弦が車のキーを取り出しながらそう言う。

「氷室くん、車で来てたんだ。忘年会でお酒飲まなかったの?」
「ああ。帰りが遅くなるだろうから車にしたんだ。どうせ幹事やってればのんびり飲む暇もないだろうと思って」
「そうなんだ。ごめん、私普通に飲んじゃってた」
「いいよ、めぐは楽しんでくれたら」

二人でパークを出るとパーキングに向かう。

「どうぞ、すぐにエアコンつけるから」
「ありがとう」

弦が開けたドアからめぐは助手席に乗り込んだ。

(氷室くんの匂いがする)

弦が運転席に回る間にめぐは目を閉じて深呼吸した。

(やっぱり落ち着くなあ)

運転席のドアが開いて弦が座ると、めぐは居住まいを正す。

「ん?なに」

エンジンをかけながら、弦がめぐの様子を気にかけた。

「また眠くなった?いいよ、寝てて」
「違うの!大丈夫、寝ないから」
「どうだか……」

弦はふっと笑みをもらして、ゆっくりと車を発進させる。
静かなバラードを小さく流し、やたら丁寧に運転する弦をめぐは横目でうかがった。

「ねえ、氷室くん。わざと私を寝かそうとしてる?」
「ん?別に。俺いつもこんな感じだけど?」
「嘘だー。だってこんなにソフトなブレーキで、微塵もカックンしないようにしてるでしょ?」
「だから、俺はいつも車にも人にも優しい走りなの。めぐはいつもすぐ寝るから気づいてないだけだ」
「むーっ、今日は寝ないからね!」
「意地張るなって。どうせ5分と持たないんだからさ」

めぐはますます頬を膨らませる。
絶対寝ない!と前を真剣に見据えた。