食後のお茶を飲みながら、恒例の「辻褄合わせの会」を始める。
周りを牽制するためにつき合っているフリをしている二人が、誰かに話したことに矛盾点がないかを確認する為だ。

「じゃあ、めぐからどうぞ」
「はーい。えっとまずは、環奈ちゃんと話してた内容ね。もうすぐ私の誕生日だけど、プレゼントは何をお願いしたのか聞かれたの。私からは何もリクエストしてないよって答えたら、氷室さんサプライズで用意してくれてるんですね、楽しみですねって。だから誕生日を過ぎたら、ネックレスを買ってもらったことにするね」
「ふーん。そのネックレスって、どうするつもりなんだ?」
「え?どうするってどういうこと?」
「会社に着けてきてって言われたら?」

あー、なるほど、とめぐは考え込む。

「実際に用意しないとだめか。じゃあ、なんか適当に買おうかな」
「え、わざわざ?」
「うん。だって手持ちのネックレス、全部会社に着けて行ったことがあるんだもん。3本しか持ってないし」
「他のアクセサリーはないのか?まだ着けて行ったことない指輪とか、ピアスとか」
「んー、ないなあ。そもそも私、あんまりアクセサリー持ってないんだ」
「そっか、分かった。じゃあ俺が買う。めぐの誕生日プレゼントとして」

ええ!とめぐは驚いて仰け反った。

「いやいや、私達つき合ってないよね?」
「ああ。だから友達としてプレゼントする。めぐには日頃から世話になってるからな」
「そう?じゃあ、その辺の雑貨屋さんとかに売ってる子ども向けのとかでいいよ」
「アホ!この俺がそんなおもちゃみたいなのプレゼントしたなんて、末代までの恥さらしじゃ」
「氷室くん、フランス人とのハーフだよね?なんで末代のこと気にするの」
「真面目に捉えるな。とにかく環奈に『氷室さんってケチくさーい』って心の中で笑われたくない。いいから俺に任せろ。めぐの誕生日に渡す」
「そう?ありがとう。じゃあ、氷室くんの方は何かある?辻褄合わせ」

弦は思い出すように宙に目をやった。

「えっとな、いくつかあったんだよな。あ、そうだ。営業課の女性社員に聞かれたんだ。めぐが俺のこと氷室くんて呼ぶのはなんでか?って。なんか疑ってるみたいだった、ほんとにつき合ってるんですか?って。だから、会社では敢えて名字で呼んでるけど二人の時は名前で呼んでくれるって言っといた」
「そっか、疑ってるなんてすごいな。どうしてだろうね?演技が嘘っぽいのかな」
「女性って妙に勘が鋭かったりするからな。あなどれん」
「なるほど。じゃあ私、今度その人の前で名前で呼んでみようか。弦くんって」

すると弦は不意を突かれて思わず赤くなる。

「え、どうしたの?ひょっとして照れてる?」
「いや違う。なんか、ウゲッてなっただけだ」
「ウゲッて何よ?」
「ウゲはウゲだ」
「変なの。他には?何かあった?」

気を取り直して弦はえーっと、と考え込む。

「馴れ初めについて聞かれたから、いつもみたいに答えといたぞ。めぐが告白してきたって」
「はあ!?違うでしょ!氷室くんが私に猛アプローチしてきたことになったはずでしょ?」
「ええ?めぐから言い寄って来たことになったんじゃなかったっけ?」
「なってません!なんかやだ、私が氷室くんに言い寄るなんて」
「なんでやだなんだよ?」
「やなもんは、やなの!いい?氷室くんから告白してきたことにしてよね」
「えー、俺もやだ」

むーっとめぐはふくれっ面になる。

「こういうのは男からビシッとするもんでしょ?その方が男らしいんだから」
「ちぇ、仕方ないな」
「ちぇって何よ?」
「はいはい、分かりましたよ。俺がめぐをコロッと惚れさせたってことにしとくよ」
「それもなんか語弊ある!」

やいやい言い合ってから、最後はいつもの質問で締めくくった。

「じゃあ確認ね。好きな人出来た?」
「いーや」
「私も。ってことで引き続き恋人同盟、よろしくね」
「はいよ」

どちらかに好きな人が出来たら、この関係は終わる。
それまでは互いに協力して恋人同士のフリをする。

それがめぐと弦の「恋人同盟」だった。