忘年会は滞りなく進み、抽選会ではホテルの宿泊券とディナー招待券に大いに盛り上がった。
料理の評判も良く、お開きになると皆は口々に幹事のめぐと弦に労いの言葉をかけて帰って行く。

「ふう、無事に終わったね。あとはお会計しなくちゃ」
「それが一番の気がかりだな。早速やるぞ」
「うん。私、あんまり酔ってないから大丈夫だと思うんだけど、ドキドキだな」

受付のテーブルに会費を広げて、めぐは弦と電卓で計算していく。

「やったー、ピタリ賞!」
「おめでとうございまーす!」

計算が合い、二人でバンザイして盛り上がる。
長谷部を呼んで清算を頼んだ。

「長谷部さん、お会計お願いします。細かいお札ですみません」
「大丈夫ですよ。では確認させていただきますね」

長谷部はお札の束をトントンと揃えてからサーッと扇のように開き、端から親指で数え始めた。

「ひゃー、かっこいい!目にも止まらぬ速さ!」
「めぐ、うるさい。長谷部さんの気が散るだろ?」
「あっ、ごめんなさい」

弦に言われてめぐは慌てて口をつぐみ、黙って長谷部の手元に注目する。
長谷部はお札を数えながらも苦笑いを浮かべた。

「雪村さん、そんなに見つめられるとお札に穴が空きそうです」
「えっ、すみません。だってあまりに鮮やかで」
「そんなこと言われたの、初めてですよ」
「本当に?こんな職人技なのに?長谷部さん、お札数え名人ですよ」

やれやれと弦が肩をすくめる。

「めぐ、長谷部さんが集中出来ない」
「ごめんなさい!どうぞお構いなく」
「いや、だから。近いんだって」

二人のやり取りを聞きながら、長谷部はまた新たなお札の束を丸く広げる。
両手を頬に当てて目を見開くめぐに、長谷部は思わず笑い出した。

「雪村さん、無言のプレッシャーが……。目からキラキラビームも出てますし。お札、燃えないかな?」

冗談ぽく言いながら鮮やかに数えていく。

「はい、確かにぴったりですね。お預かりいたします。こちらが領収書です」
「ありがとうございます」
「雪村さん、氷室さん。もしお時間あればお料理食べていってください。幹事でお忙しくて、あまり召し上がれなかったでしょう?」

長谷部はそう言うと、二人をビュッフェカウンターの近くのテーブルに案内した。

「今、お料理お持ちしますね。先にお飲物をどうぞ」
「何から何まで、ありがとうございます」

二人は長谷部の気遣いに感謝して、綺麗に盛り付けられた料理を味わった。