開始時間になり、遅刻予定者以外の全員が受付を済ませると、弦が前に立ってマイクを握る。

「皆様、お待たせいたしました。これよりグレイスフル ワールド社員の忘年会を始めます。パークは今も営業中。現場を守ってくれているスタッフに感謝しつつ今夜は皆で親睦を深め、明日からの繁忙期に備えて大いに楽しみましょう。司会はわたくし、広報課の氷室が務めます。どうぞよろしくお願いいたします」

お辞儀をする弦に、温かい拍手が送られる。
開会の挨拶と乾杯が終わると、皆は思い思いに料理を手に歓談の時間となった。

「雪村さん、遅れていらした方をお連れしました」

声をかけられてめぐは振り返る。
長谷部が遅刻予定だった企画課の男性社員を促していた。

「ありがとうございます、長谷部さん」

お礼を言うと、めぐは男性社員から会費を預かる。

「今は歓談のお時間ですので、どうぞご自由にお料理を召し上がってください」
「ありがとう、雪村さん」

するとすかさず長谷部がドリンクを載せたトレイを手に戻って来た。

「お飲物はいかがですか?」
「じゃあ、シャンパンを」
「かしこまりました」

にこやかにシャンパングラスを差し出す長谷部に、めぐは感心する。

(さすがだなあ、長谷部さん)

じっと見守っていると、ふと長谷部がめぐの視線に気づき、にっこりと微笑みかけてきた。

(ひゃっ、出た。必殺ジェントルスマイル)

めぐも笑顔を返してから、気恥ずかしさにその場をあとにした。