迎えた忘年会当日。
めぐと弦は定時で事務所を出ると、ホテルのバンケットルームに向かった。
中ではスタッフが忙しそうに準備に追われている。
その中心で指示を出している長谷部の姿を見つけて、二人で歩み寄った。

「長谷部さん、こんばんは。今日はよろしくお願いします」
「雪村さん、氷室さん。こんばんは、こちらこそよろしくお願いいたします。早速ですが受付のセッティングからご確認いただけますか?」
「はい、分かりました」

長谷部に案内されて扉の近くに並べられたテーブルに向かう。
テーブルには白いクロスが掛けられ、綺麗な生花も飾られていた。

「素敵にセッティングしてくださって、ありがとうございます」

めぐは笑顔で長谷部にお礼を言う。

「いいえ。筆記用具はこちらで足りますか?集金する際の箱と電卓も、よろしければどうぞ。他にも何かご入用でしたら、いつでもお声かけください」
「ありがとうございます。もう至れり尽くせりです」

長谷部はスタッフに呼ばれて準備に戻り、めぐと弦も受付に名簿を置いて椅子に座った。
時間になると、続々と社員達がやって来る。

「雪村さん、幹事ありがとう。会費もよく例年通りに抑えられたわね」

めぐに幹事を頼んだ営業課の社員が声をかけてきた。

「ホテル支配人の長谷部さんのおかげなんです。抽選会の景品を提供してくださったので」
「そうなのね。あの人、私と同い年の33歳なのにもう支配人でしょ?ほんと、すごいのよね」

そうなんだ、とめぐは初めて長谷部の年齢を知る。
確かに33歳で支配人は異例のことだろう。

(でも長谷部さんなら頷ける。とっても細やかに気遣ってくれるし、上司としても部下に慕われてるのがよく分かるもん)

チラリと長谷部に目をやると、今もバンケットスタッフに穏やかに指示を出している。
おかげで会場全体が落ち着いた雰囲気に包まれていた。

(長谷部さんがいてくれたら、今夜の忘年会も大丈夫)

めぐは心の中でそう呟いていた。