コンサートが終わり、カップルは続々と席を立つ。
最後のカップルを長谷部が笑顔で見送るのを見て、めぐはようやく席を立った。

「長谷部さん、今夜はありがとうございました。ブランケットもお返しします」
「どういたしまして。楽しんでいただけましたか?」
「はい。とっても素敵で、聴き惚れてしまいました」
「良かったです。うっとりしている雪村さんに、私もうっとりしてしまいました」
「……はい?」

長谷部はクスッと笑うと腕時計に目を落とす。

「雪村さん、このあとお時間ありますか?忘年会の見積書をお渡ししようかと」
「あ、はい。私からも決定したタイムテーブルをお知らせしますね」
「あと5日後ですものね、色々確認しましょう。ではバックオフィスへどうぞ」

二人でロビーを横切り、フロントの後ろ側のオフィスへと向かう。
STAFF ONLYと書かれたドアを開けると、ちょうど私服に着替えた聖歌隊のメンバーが控え室から出てくるところだった。

「わあ、さっきの人達ですよね?」

後ろ姿を見送りながら、めぐは長谷部に尋ねる。

「ええ、当ホテルの結婚式でもお世話になってる方々です」
「結婚式で?あ、讃美歌ですか?」
「そうです。最近では式での讃美歌だけでなく、披露宴でゴスペルを希望されるカップルもいらっしゃいますよ」

ゴスペル?とめぐは驚く。

「そうなんですね。どんな感じなんだろう……。なんだか盛り上がって楽しそうですね」
「よろしければ紹介映像もご覧になりますか?ブライダルフェアでお客様にご提案している映像なんですが」
「はい、拝見したいです。取材に対応する上でも情報は多く頭に入れておきたいですし。広報でも今後ホテルの結婚式を大々的に紹介していこうかな」
「それはぜひともお願いしたいです」
「では今度、広報課のメンバーに提案してみますね」