バンケットルームを出て4人でエレベーターホールへと向かいながら、弦は矢田と肩を並べて雑談している。
その後ろを歩きながら、長谷部はめぐに声をかけた。

「雪村さん、随分時間が経ちましたが足の具合はいかがですか?」
「はい、もうすっかり良くなりました。その節はお世話になりました」
「いいえ。キャナルガーデンでテレビ収録されている雪村さんを度々見かけて、元気そうでホッとしてました」
「そうだったんですか。余裕がなくていつもバタバタ走り回ってますよね?お恥ずかしい」
「とんでもない。いつお見かけしても美しくて見とれてしまいますよ」
「え……」

めぐは戸惑ってうつむいた。
面と向かってそう言われると、返す言葉に詰まる。

「雪村さん、ひょっとして私の存在忘れてましたね?」
「ええ?長谷部さんのことを忘れるなんてことありませんが……」

どういう意味なのだろうと首を傾げて見上げると、長谷部はふっと頬を緩めた。

「じゃあ、7本のバラの意味は覚えてますか?」
「7本の、バラ……」

そう呟くと、途端にめぐは真っ赤になる。

「やっぱり忘れてたでしょ?」
「いえ、あの。思い出さなかっただけで、忘れていた訳では……」
「それを忘れてたって言うんですよ」
「でも、あの、今は覚えてます」
「そうですか、それなら良かった。はい、これ」
「はい?これ?」

めぐは淡々とした長谷部の口調に振り回されつつ、差し出された封筒を受け取る。

「12月15日に、ロビーコンサートがあるんです。ブライダルフェアにお越しいただいたカップルをご招待するんですが、毎年空席が目立ってしまって。もし雪村さんのご都合が合えば、お立ち寄りいただけると嬉しいです」
「え?あの、えっと……」

頭が追いつかずにいると、いつの間にかエレベーターの前まで来ていた。
弦がボタンを押しながら振り返ってめぐを促す。

「めぐ、どうぞ」
「あ、はい」

エレベーターに乗ってロビーに下り、エントランスまで来ると長谷部と矢田が改めてお辞儀をした。

「それでは我々はここで。本日はご足労いただきありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。失礼いたします」

めぐと弦もお礼を言ってから歩き出す。
最後にチラリとめぐが視線を向けると、気づいた長谷部はめぐににこっと微笑みかけた。