「それではお先に失礼します」

定時になり、他の社員に挨拶してからめぐは弦と一緒に事務所を出た。

「帰りにスーパー寄っていい?夕食作るから」
 
駅までの道を並んで歩きながらめぐが言うと、弦は首を振った。

「いや、帰ったらお前は休んでろ。俺がなんか作るから」
「え!氷室くん、料理するの?」
「男の手抜きメシだけどな。チャーハンとギョウザでいいなら」
「充分だよ。ありがとう!」

電車で3つ隣の駅に着くと、改札を出てすぐのスーパーに立ち寄った。
弦はカゴに次々と手慣れた様子で材料を入れていく。

「へえ、ねぎとかチャーシューとかにんにくもちゃんと入れるんだね」
「おう。俺、チャーハンだけは自信あるんだよ」
「そうなんだ。ふふ、楽しみ」

会計を済ませると、歩いて5分程のめぐのマンションに向かった。

「ただいまー」
「お邪魔しまーす」

何度も来ている弦は勝手知ったるとばかりに洗面所で手を洗うと、早速キッチンで料理を始める。

「めぐ、ソファで休んでろよ」
「ありがとう」

めぐはコーヒーを二人分淹れると一つはキッチンに置き、もう一つのカップを持ってソファに座った。
クッションを胸に抱えて後ろから弦の様子を見守る。

「氷室くん、普段から自炊するの?」
「んー、たまにな。出かけるのがめんどくさい時とか」
「彼女出来たら作ってもらえるかもよ?」
「いや、一人で気ままな方がいい。『どう?美味しい?』とかっていちいち感想求められたり、見返りになんか買って、みたいな雰囲気醸し出されるのが嫌なんだ。口に合わなくても『全部食べるよね?』って圧をかけられたり」
「えー、どんな経験談なの?それ」

あはは!とめぐは笑う。

「私が作った料理も無理して食べてたの?今まで残したことないよね、氷室くん」
「めぐの料理は普通に美味いからな」
「なにそれ。褒めてんの?けなしてんの?」
「褒めてんだよ。だって名前もよく分からん料理出されんだぜ?ビーフストローなんちゃらとか、アクアチョッパとか」
「それを言うなら、ビーフストロガノフとアクアパッツァじゃない?」
「そうとも言うかもな。とにかく俺は、めぐが作るみたいな肉じゃがとか親子丼がいい。ほら、出来たぞ」

弦はお皿をソファの前のローテーブルに並べた。
チャーハンはごろごろとチャーシューが入っていて、ギョウザは焦げ目がパリッとしている。

「わーい、美味しそう!いただきます」

手を合わせるとめぐは早速食べてみた。

「うん、美味しい!これはビールが進んじゃうね」
「だろ?あ、でも今日は飲むな」
「えー、こんなに美味しいのに」
「また作ってやるからよ」
「うん!」

二人であっという間に平らげた。