「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします」

関係者入り口で、めぐと弦はやって来たテレビクルーに挨拶する。

「おはようございまーす!おお、こりゃまたイケメンと美女!視聴率取れそうだなー」

軽い口調のディレクターに、めぐも弦もいつものようににこやかに名刺を差し出した。

今日は番組レギュラーの男性アナウンサーと、30代の女性タレントと一緒に回ることになっている。
めぐと弦はその二人にも改めて挨拶した。

「えっとねー、とにかく行っちゃいましょう。事前打ち合わせとか、そういうのいらないから」

ディレクターがそう言い、音響スタッフがめぐ達4人にピンマイクを着けると、早速撮影が始まった。

「やって来ました、グレイスフル ワールド!大人気のテーマパークを、今日は丸一日楽しんじゃいます。案内してくれるのはこちらのお二人です!」

男性アナウンサーの言葉に合わせて、めぐと弦もカメラにフレームインする。

「グレイスフル ワールド広報課の雪村です」
「同じく氷室です。今日はよろしくお願いいたします」

すると女性タレントがカメラにズイッと顔を寄せ、内緒話のように声を潜めた。

「ご覧ください!美男美女ですよ。今日はお二人のこともさり気なく聞き出しちゃいます」

え……、とめぐは笑顔を浮かべつつも戸惑う。
プライベートの話は個人的にも会社としてもテレビで話すべきことではないのだが、撮影の流れとして雰囲気を壊さないことも大切だった。
その辺りのさじ加減が難しい。

(まあ、生放送ではないし、何かあったらあとでNGにしてもらえばいいか)

気を取り直して撮影に臨んだ。
フリートークでパークのエントランスを入る。

「あちこちにハロウィンの飾りつけやフォトブースもありますね」
「はい。一番盛り上がっているのは、ハロウィン発祥の国でもあるアイルランドエリアです」
「そうなんですね。では我々も早速行ってみたいと思います。雪村さん、案内をお願いします」
「かしこまりました」

男性アナウンサーとめぐが並んで前を歩き、その後ろに女性タレントと弦が肩を並べるのがなんとなくお決まりのポジションになってきた。
めぐはアイルランドエリアに向かいつつ、環奈と以前取材したバームブラックのことを話した。

「へえ、ケーキで占いですか。ぜひやってみたいです。雪村さんはもうやってみたんですか?」
「はい、ひと足早くやりました」
「占いの結果は?」
「それは後ほどお伝えしますね」
「なるほど、私も占い楽しみです」

そんな話をしているうちに、前にも訪れたカフェに着いた。
今日は取材でここにも立ち寄ることを伝えてあった為、取材用にテーブルがリザーブされ、前回と同じスタッフがにこやかに出迎える。
4人がテーブル席に座ると早速バームブラックが運ばれてきた。
既にやったことがあるめぐがその場を仕切って話を進める。

「それでは、ケーキを選んでください」
「うーん、これにしようかな」
「私はこれ」

めぐは男性アナウンサーと女性タレントがそれぞれ選んだ一片をお皿に載せた。

「せっかくですから、氷室さんも選んでください」

女性タレントに言われて、弦は一番左端を選ぶ。

「ではフォークを入れてみたいと思います。何が出るかな……、ん?なんだろう、ボタンかな?」

男性アナウンサーが怪訝そうにボタンを取り出す。

「私はなんか、布切れみたい。え、ほんとに?」

女性タレントは不思議そうに首をひねって、カメラにお皿を差し出してみせる。

「布だよね?これ」

カフェのスタッフが「はい」と頷く。

「では占いの結果をお伝えしますね。まずボタンは、残念ながら結婚運が遠のきます」
「ええー?ショック……」
「そして布切れですが。こちらも残念ですが、お金が飛んでいきます」
「えっ!嘘でしょー」

男性アナウンサーと女性タレントは、同じようにガックリとうなだれた。

「悪い結果しか出ない占いなんですか?」
「いえ、そんなことはないですよ」
「あ!氷室さん、まだでしたね。やってみてください。我々のリベンジに」

期待の目を向けられて、苦笑いしつつ弦はフォークを入れた。
中から出て来たのは……。

「これって指輪ですかね?お姉さん、指輪の意味は?」

女性タレントが身を乗り出した。

「はい。指輪が出た方は、近いうちに結婚出来ると言われています」
「ええー!氷室さん、いいなー。っていうか、まだ独身なんですか?氷室さん」
「はい、そうです」
「じゃあ近々彼女とゴールインですね。プロポーズしちゃえってことですよ」
「それはどうでしょう……」

弦は笑って女性タレントの言葉をかわすが、なかなか引き下がってはくれない。

「氷室さんほどかっこ良かったら絶対プロポーズOKされますよ。おつき合いは長いんですか?」
「いえ、恋人はいません」
「嘘だー、そんなの信じられない」

これはそろそろ話題を変えなければと、めぐが口を開こうとした時だった。

「好きな人はいます。片思いですが」

弦の言葉に、めぐは思わず固まる。

(ひ、氷室くん、テレビでなんてことを……)

だが女性タレントは「ひゃー!」と大きな声で仰け反った。

「キュンキュンしました。ねえ?皆さん」

そう言ってカメラに顔を寄せる。

「こんなイケメンに一途に思われたら……。あー、想像しただけで心なしかお肌のツヤが良くなったような……」

真顔で頬に手をやる女性タレントに男性アナウンサーが笑った。

「ははは!それは良かったですね。ところで雪村さんは?以前やった占いの結果、何が出たんですか?」
「はい、私も指輪が出ました」
「おおー、いいですね。ちゃんと出る人には良い結果が出るんですね。皆さんもぜひハロウィンの占い、バームブラックをやってみてはいかがでしょうか」

いい感じにまとまり、次の場所へと移動を始める。
めぐがふと振り返ると、弦は何とも言えない嬉しさを噛みしめるような表情でうつむいていた。