「あの、雪村さん」
「はい」

昼休みの社員食堂で声をかけられて、めぐは振り返る。
スーツを着たまだ若い男性社員が緊張の面持ちで立っていた。

「あの、さっきテレビ観ました。今回もお綺麗で、見とれてしまいました」
「ありがとうございます」
「それで、あの。良かったらおつき合いしていただけませんか?まずは二人で食事にでも……」

その時グイッと誰かに肩を抱き寄せられて、めぐは顔を上げる。
いつの間に来たのか、弦がめぐの肩を抱きながらにこやかに口を開いた。

「ごめんね、俺達つき合ってるんだ」
「え、あっ、そうでしたか!失礼しました」
「いいえー」

そそくさと立ち去る男性社員を見送ると、弦はめぐを抱いていた手を下ろす。

「俺達がつき合ってるって噂を知らないってことは、新入社員かな?」
「そうだろうね、若い子だったから」
「それにしてもお前、今月入って何回目だ?告白されたの」
「えっと、3回目かな?」
「俺が知るだけで5回だ」
「そうかな。氷室くんの方がもっと多いでしょ?私、何回も彼女のフリしたもん」
「しっ!誰かに聞かれる」

いけない、とめぐは口元を手で覆う。
幸い近くに人はいなかった。
二人で日替わり定食を注文し、トレイに載せて空いている席に着く。

「めぐ、今夜久々に食事行くか?辻褄合わせの会」
「うん、分かった」
「あ、でもお前具合悪いんだったな。今日はやめとくか」
「大丈夫だよ。それなら私の部屋でもいい?」
「そうだな、その方が安心だし。じゃあ定時になったら一緒に帰るか」
「了解」

こうやって二人でいる時は誰にも声をかけられない。
めぐと弦はゆっくりと食事を楽しんだ。