「雪村さん、具合はいかがですか?」
翌朝の7時に客室まで朝食を運んで来た長谷部に聞かれて、めぐは笑顔で頷く。
「ぐっすり眠れて元気いっぱいです。足の痛みもないですし」
「そうですか、良かった。あ、待って。一人で歩かないでください」
そう言うと長谷部は、立ち上がっためぐの手を取ってテーブルまで寄り添う。
「ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくり。食べ終えたらそのままにしておいてくださいね。あとで下げに来ますから」
「あの、長谷部さんはもう勤務時間外なのではないですか?どうぞお構いなく」
「あと1時間で夜勤明けです。そのあとは別のスタッフに引き継ぎますね」
「はい、分かりました。長谷部さん、本当に色々とありがとうございました」
「どういたしまして」
長谷部が出て行くと、めぐはホテルの朝食をゆったりと味わった。
(うーん、優雅なのはいいけど、1週間も滞在したらすごい金額になりそうだわ)
せいぜい5日間にしておこうと思いながら食事を終えてのんびりしていると、ドアのチャイムのあと環奈の声がした。
「雪村さーん!環奈です。入ってもいいですか?」
どうぞ、と答えるとピッとドアロックが解除されて環奈が姿を現した。
「おはようございます。長谷部さんにお願いして、カードキーお借りしました。雪村さん、具合はどうですか?」
「おはよう、環奈ちゃん。わざわざ出社前に来てくれたの?ありがとう。もう痛みもないし大丈夫よ」
「良かった!でもまだ極力歩いたりしないでくださいね。これ、差し入れです。コンビニデザートと雑誌です」
「わあ、ありがとう!なんて気が利くの、環奈ちゃん。すごく嬉しい」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりです。じゃあまた顔出しますね、お大事に」
「うん、ありがとね」
笑顔で手を振って環奈を見送ると、めぐは仕事のスケジュールを思い出す。
(氷室くんに事情を話しておかないと。もう出社してるかな?)
プライベートの時間に連絡することはなるべく避けたい。
時計の針が9時を回ったのを見てから、メッセージを送った。
『お疲れ様です。環奈ちゃんから聞いたと思いますが、昨日私の不注意で足を捻挫してしまいました。全治1週間で、その期間はテレワークさせてもらうことになりました。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします』
送信すると、すぐに既読になる。
だが一向に返事は返って来なかった。
(なんだろう、どうしてひと言も返事がないのかな)
時間が経てば経つほど不安になってくる。
(メッセージしたらいけなかった?でも、電話するのもなんだか……)
恋人同盟を解消してから、めぐはどう弦と接していいのか分からなくなっていた。
以前はなんでも気兼ねなく話していたのに、今となればどうやって会話していたのかも分からない。
(どうしよう、これからどうすればいいの?どこで間違えたんだろう。あんなにいつも近くにいて、心から氷室くんを信頼してたのに。今は氷室くんのこと、ものすごく遠くに感じる。でもようやく好きな人が出来た氷室くんを応援したい。幸せになって欲しい)
邪魔をしたくない。
それならやはり、距離を置くしかないのだ。
どんなに寂しくなっても、もう元の関係には戻れない。
そう思うと、涙が込み上げてきた。
窓の外に広がる景色を見ると、ランタンフェスティバルを思い出した。
あの時、心を癒やしてくれたランタンはもう見えない。
そしていつも胸に咲いていたブルースターのネックレスも……。
胸元に手をやり、ギュッと拳を握りしめる。
堪えていた涙が一気に溢れてきた。
(私が失くしたものって何?心の支え?友情?癒やし?……きっと全部だ)
ぽたぽたと手の甲に涙のしずくが落ち、また新たな涙を誘う。
肩を震わせて泣き続けていると、ふいにチャイムが鳴った。
えっ?とめぐは顔を上げる。
(あ、そうか。スタッフが食器を下げに来てくれたのね)
長谷部の言葉を思い出し、慌てて涙を拭ってから「どうぞ」と声をかけた。
ピッとロックが解除されてドアが開く。
と、めぐは驚いて息を呑んだ。
翌朝の7時に客室まで朝食を運んで来た長谷部に聞かれて、めぐは笑顔で頷く。
「ぐっすり眠れて元気いっぱいです。足の痛みもないですし」
「そうですか、良かった。あ、待って。一人で歩かないでください」
そう言うと長谷部は、立ち上がっためぐの手を取ってテーブルまで寄り添う。
「ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくり。食べ終えたらそのままにしておいてくださいね。あとで下げに来ますから」
「あの、長谷部さんはもう勤務時間外なのではないですか?どうぞお構いなく」
「あと1時間で夜勤明けです。そのあとは別のスタッフに引き継ぎますね」
「はい、分かりました。長谷部さん、本当に色々とありがとうございました」
「どういたしまして」
長谷部が出て行くと、めぐはホテルの朝食をゆったりと味わった。
(うーん、優雅なのはいいけど、1週間も滞在したらすごい金額になりそうだわ)
せいぜい5日間にしておこうと思いながら食事を終えてのんびりしていると、ドアのチャイムのあと環奈の声がした。
「雪村さーん!環奈です。入ってもいいですか?」
どうぞ、と答えるとピッとドアロックが解除されて環奈が姿を現した。
「おはようございます。長谷部さんにお願いして、カードキーお借りしました。雪村さん、具合はどうですか?」
「おはよう、環奈ちゃん。わざわざ出社前に来てくれたの?ありがとう。もう痛みもないし大丈夫よ」
「良かった!でもまだ極力歩いたりしないでくださいね。これ、差し入れです。コンビニデザートと雑誌です」
「わあ、ありがとう!なんて気が利くの、環奈ちゃん。すごく嬉しい」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりです。じゃあまた顔出しますね、お大事に」
「うん、ありがとね」
笑顔で手を振って環奈を見送ると、めぐは仕事のスケジュールを思い出す。
(氷室くんに事情を話しておかないと。もう出社してるかな?)
プライベートの時間に連絡することはなるべく避けたい。
時計の針が9時を回ったのを見てから、メッセージを送った。
『お疲れ様です。環奈ちゃんから聞いたと思いますが、昨日私の不注意で足を捻挫してしまいました。全治1週間で、その期間はテレワークさせてもらうことになりました。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします』
送信すると、すぐに既読になる。
だが一向に返事は返って来なかった。
(なんだろう、どうしてひと言も返事がないのかな)
時間が経てば経つほど不安になってくる。
(メッセージしたらいけなかった?でも、電話するのもなんだか……)
恋人同盟を解消してから、めぐはどう弦と接していいのか分からなくなっていた。
以前はなんでも気兼ねなく話していたのに、今となればどうやって会話していたのかも分からない。
(どうしよう、これからどうすればいいの?どこで間違えたんだろう。あんなにいつも近くにいて、心から氷室くんを信頼してたのに。今は氷室くんのこと、ものすごく遠くに感じる。でもようやく好きな人が出来た氷室くんを応援したい。幸せになって欲しい)
邪魔をしたくない。
それならやはり、距離を置くしかないのだ。
どんなに寂しくなっても、もう元の関係には戻れない。
そう思うと、涙が込み上げてきた。
窓の外に広がる景色を見ると、ランタンフェスティバルを思い出した。
あの時、心を癒やしてくれたランタンはもう見えない。
そしていつも胸に咲いていたブルースターのネックレスも……。
胸元に手をやり、ギュッと拳を握りしめる。
堪えていた涙が一気に溢れてきた。
(私が失くしたものって何?心の支え?友情?癒やし?……きっと全部だ)
ぽたぽたと手の甲に涙のしずくが落ち、また新たな涙を誘う。
肩を震わせて泣き続けていると、ふいにチャイムが鳴った。
えっ?とめぐは顔を上げる。
(あ、そうか。スタッフが食器を下げに来てくれたのね)
長谷部の言葉を思い出し、慌てて涙を拭ってから「どうぞ」と声をかけた。
ピッとロックが解除されてドアが開く。
と、めぐは驚いて息を呑んだ。



