「金運かあ。この硬貨、お財布に入れておこうっと。効果あるかな」
「あはは!環奈ちゃん、今のダジャレ?」
「え、普通に言っただけですよ?」
「なんだー、上手だなって思ったのに」
「雪村さんは、その指輪どうしますか?」
「んー、キーケースにつけようかな。アンティークっぽくて素敵だもんね」

そんなことを言いながらカフェをあとにすると、ヨーロッパエリアを回ってもう少し撮影することにした。

「キャナルガーデンの運河のほとりにジャック・オ・ランタンも並んでるみたいですよ。ちょうど陽も落ちてきたし、明かりが点いてるかも?」
「そうなんだ。行ってみようか」

二人で運河に沿って歩いて行く。

(少し前までランタンを見に毎晩通ったなあ)

懐かしく思い出しながら、環奈と肩を並べてキャナルガーデンまでやって来た。

「あ、ありましたよ!ジャック・オ・ランタン。たくさん並んでる。ほのかに明るくて綺麗ですね」
「うん、ほんとに」

手すりにもたれて下を見下ろすと、運河の両サイドにジャック・オ・ランタンが等間隔で並べられている。
夕暮れの綺麗な空と柔らかいオレンジ色の明かりをともすジャック・オ・ランタンは、一緒に撮ると絵になる一枚になった。

「ちょうどいい時に来たね」

刻々と移りゆく空模様に、めぐは夢中で写真を撮り続ける。
すると環奈がふいに「危ない!」と叫んだ。
え?と思った時には遅く、めぐは運河のほとりに下りる階段から足を踏み外す。

「きゃっ……」
「雪村さん!」

環奈が懸命に腕を伸ばして捕まえてくれたおかげで、転がり落ちるのは免れた。

「ありがとう、環奈ちゃん。……いたっ」
「雪村さん、足をひねりましたか?」
「えっと、そうかも」

次第にジンジンと強くなる右足首の痛みに、めぐは思わず顔をしかめる。

「そこのベンチまで歩けますか?」
「うん」

めぐは環奈の肩を借りてすぐ脇のベンチまで行くと座り込む。
先ほどまでの鈍い痛みは、ズキズキと強い痛みへと変わっていた。

「雪村さん、ちょっとだけ待っててくださいね」

そう言い残し、環奈はどこかにタタッと駆けて行く。
痛みに顔をしかめながら堪えていると、「雪村さん!」と環奈が戻って来た。
顔を上げると環奈の後ろに長谷部の姿が見えて、めぐは驚く。
二人はめぐに駆け寄ると、すぐに屈み込んだ。

「ちょっと見せてください」

めぐが手で押さえていた右足首に、長谷部がそっと触れる。
途端にズキン!と痛みが走り、めぐは身体を強張らせた。

「かなり熱を持ってますね。これから腫れも酷くなると思います。すぐに病院へ行きましょう。雪村さん、車でお送りします」
「ええ!?そんな、長谷部さんお仕事は?」
「私が抜けてもどうってことないですよ。立てますか?私の肩に掴まってください」
「え、でも……」

戸惑っていると、環奈が真剣に顔を寄せる。

「雪村さん、こういう時くらい誰かに頼ってください。その方が私達は嬉しいんです。ね、長谷部さん」
「おっしゃる通りです。ほら、雪村さん。酷くなる前に行きましょう」
「私、すぐに雪村さんの荷物持って来ますね」

そう言って環奈は事務所の方へと駆け出して行った。

「すみません、長谷部さん」

めぐは長谷部の手を借りて立ち上がる。

「歩けますか?もっと私に寄りかかってください」
「はい、ありがとうございます」

だが右足を地面につけるとズキン!と痛みが身体に走る。
唇を噛みしめながら痛みを堪えて歩いていると、ふいに長谷部が立ち止まった。

「雪村さん、ちょっと失礼」

そのまま一気にめぐを抱き上げ、スタスタと歩き出す。

「え、あの、下ろしてください。歩けますから」
「この方が早いです」
「でも私、重いですよね?」
「そんなに情けない男ではありません。ほら、着きましたよ」

長谷部はゆっくりとめぐを地面に下ろすと、スラックスのポケットから車のキーを取り出してロックを解除する。
助手席のドアを開けてめぐを座らせると「スタッフに声をかけてすぐに戻ります」と言ってドアを閉めた。