「お世話になりました。もう仕事に戻りますね」
2時間ほど休んだあと、めぐはナースに声をかけて事務所に戻った。
パークの開園時間を過ぎ、救護室にも少しずつケガや具合が悪くなったゲストがやって来る。
これ以上ベッドを占領するわけにはいかなかった。
「お、めぐ。もう平気なのか?」
課長に挨拶をしてから自分のデスクに行くと、隣の席の弦が顔を上げた。
「うん、もう大丈夫。色々ありがとうね、氷室くん。パンもごちそうさまでした」
「あれくらい、いいよ。ところでさ、さっきのテレビ取材の放送時間がもうすぐなんだって。観るか?」
「いや、聞かれるまでもなくチャンネル変わってますよね?」
めぐが課長のデスクに目をやると、課長はリモコンで壁際のテレビのチャンネルを変えていた。
「はは!確かに。まあ、どんなふうに取り上げられたかは確認しておかないとな」
弦の言葉に頷いて、めぐは椅子に座ってテレビに目を向ける。
朝の情報番組のオープニングトークが始まった。
メインMCの挨拶とコメンテーターの紹介があり、早速「グレイスフル ワールド」の話題に入る。
「どんな新アトラクションなのでしょうか。VTRでご覧いただきましょう。どうぞ」
そして画面がパッと変わる。
記憶にも新しい今朝のロケの様子が映し出された。
「わあ、相変わらず絵になりますね、お二人とも」
向かいのデスクから後輩の環奈が声をかけてくる。
「お隣のアナウンサーも美人ですけど、なんだろう?雪村さんと氷室さんのオーラがハンパなくてかすんじゃいますね」
「そんなことないよ、環奈ちゃん。近くで見るととっても綺麗な人だったもん」
広報用の制服として鮮やかなロイヤルブルーのスーツに身を包んだめぐと弦は、それだけで目を引いた。
めぐはストレートの黒髪をアップに、弦もサイドの髪を綺麗に整えている。
「はあ、テレビの中のお二人が今私の目の前にいるなんて、感激しちゃう」
「環奈ちゃんたら、大げさな」
苦笑いしつつ、めぐはテレビの中の自分を見る。
「この時はまだ平気そうよね」
弦に話しかけると、いや、と首を振られた。
「いつもより顔が白いな。ごめん、俺がここで気づけば良かった」
「ううん、氷室くんのせいなんかじゃないから」
テレビの中の二人はにこやかにアナウンサーとやり取りしている。
画面が切り替わり、アトラクションに乗り込んだ場面になった。
ゆっくりとゴンドラが動き出し、トンネルを抜けた先にカナダの景色が大きく映し出される。
「おおー、なかなか綺麗に撮れてるな」
課長が満足気に声を上げた。
だがめぐはだんだん顔をこわばらせる。
(うっ、このあとのことが蘇ってきちゃう)
美しいオーロラの下をくぐり、明るくなった画面に空が映し出された。
次の瞬間……。
「イヤーーー!!」
テレビの中からめぐの絶叫が聞こえてきた。
「イテッ!やめろ、めぐ!」
「無理!ヒーー、怖いーー!!」
アナウンサーの声よりも、後ろの二人の声の方が大きく拾われている。
「えー、これって雪村さんの声ですか?なんだか意外!いつもスマートで大人の余裕がある感じなのに」
環奈の呟きに、めぐはいたたまれなくなった。
「ちょっとこれ、恥ずかし過ぎる。どうしてカットしてくれなかったんだろう」
「まあ、じっくり編集する時間がなかったんだろうな」
「そうだけど……。これじゃあ生放送と変わらないよ」
事前収録ならこちらが内容を確認する時間も取れるのだが、今回はアトラクションのオープンに合わせた為、当日撮影となった。
「仕方ないだろ?いつも生放送のつもりで撮影に臨むしかないよ」
弦の言葉にごもっともだと、めぐは頷く。
「だけどさ、そもそも私が絶叫マシンが苦手っていうのが問題だよね」
「うん、それは一理ある」
「これからも取材はあるだろうし、困ったなあ」
「めぐは無理して乗る必要ないよ。次回からは先方との打ち合わせの時に俺が上手くかわしておくから」
「そう?ごめんね。どうしてもの時は覚悟決めて乗るから」
「いや、また倒れたら大変だ。生放送でそんなシーンが流れたらそれこそ放送事故だしな」
「そ、そうだね」
想像しただけで恐ろしい。
ちょうどテレビでは、アトラクションを降りた3人が感想を言う場面になっていた。
「笑ってるけど顔が真っ白だな、めぐ。かなりヤバかっただろ?」
「うん。この時の記憶がほぼない」
「けど気力でなんとか持ちこたえたな。このあとOKの声がかかった瞬間、膝から崩れ落ちたんだよ」
「そうだったんだ。ありがとう、氷室くんがいてくれて助かった」
テレビの画面がスタジオに切り替わり、コメンテーター達が「乗ってみたいですね」など感想を言い合ってコーナーは終わった。
「雪村さん、氷室くん。今回もご苦労様。なかなか良い感じに取り上げてもらえたね」
課長が近づいて来て、めぐと弦は立ち上がる。
「はい、ありがとうございます」
「この調子で頼むよ。しばらくは新アトラクションについての取材が多い。スケジュールを確認しておいてくれ」
「かしこまりました」
課長を見送ると、めぐと弦は早速二人でスケジュールを確認し、取材内容や返答のセリフを話し合った。
2時間ほど休んだあと、めぐはナースに声をかけて事務所に戻った。
パークの開園時間を過ぎ、救護室にも少しずつケガや具合が悪くなったゲストがやって来る。
これ以上ベッドを占領するわけにはいかなかった。
「お、めぐ。もう平気なのか?」
課長に挨拶をしてから自分のデスクに行くと、隣の席の弦が顔を上げた。
「うん、もう大丈夫。色々ありがとうね、氷室くん。パンもごちそうさまでした」
「あれくらい、いいよ。ところでさ、さっきのテレビ取材の放送時間がもうすぐなんだって。観るか?」
「いや、聞かれるまでもなくチャンネル変わってますよね?」
めぐが課長のデスクに目をやると、課長はリモコンで壁際のテレビのチャンネルを変えていた。
「はは!確かに。まあ、どんなふうに取り上げられたかは確認しておかないとな」
弦の言葉に頷いて、めぐは椅子に座ってテレビに目を向ける。
朝の情報番組のオープニングトークが始まった。
メインMCの挨拶とコメンテーターの紹介があり、早速「グレイスフル ワールド」の話題に入る。
「どんな新アトラクションなのでしょうか。VTRでご覧いただきましょう。どうぞ」
そして画面がパッと変わる。
記憶にも新しい今朝のロケの様子が映し出された。
「わあ、相変わらず絵になりますね、お二人とも」
向かいのデスクから後輩の環奈が声をかけてくる。
「お隣のアナウンサーも美人ですけど、なんだろう?雪村さんと氷室さんのオーラがハンパなくてかすんじゃいますね」
「そんなことないよ、環奈ちゃん。近くで見るととっても綺麗な人だったもん」
広報用の制服として鮮やかなロイヤルブルーのスーツに身を包んだめぐと弦は、それだけで目を引いた。
めぐはストレートの黒髪をアップに、弦もサイドの髪を綺麗に整えている。
「はあ、テレビの中のお二人が今私の目の前にいるなんて、感激しちゃう」
「環奈ちゃんたら、大げさな」
苦笑いしつつ、めぐはテレビの中の自分を見る。
「この時はまだ平気そうよね」
弦に話しかけると、いや、と首を振られた。
「いつもより顔が白いな。ごめん、俺がここで気づけば良かった」
「ううん、氷室くんのせいなんかじゃないから」
テレビの中の二人はにこやかにアナウンサーとやり取りしている。
画面が切り替わり、アトラクションに乗り込んだ場面になった。
ゆっくりとゴンドラが動き出し、トンネルを抜けた先にカナダの景色が大きく映し出される。
「おおー、なかなか綺麗に撮れてるな」
課長が満足気に声を上げた。
だがめぐはだんだん顔をこわばらせる。
(うっ、このあとのことが蘇ってきちゃう)
美しいオーロラの下をくぐり、明るくなった画面に空が映し出された。
次の瞬間……。
「イヤーーー!!」
テレビの中からめぐの絶叫が聞こえてきた。
「イテッ!やめろ、めぐ!」
「無理!ヒーー、怖いーー!!」
アナウンサーの声よりも、後ろの二人の声の方が大きく拾われている。
「えー、これって雪村さんの声ですか?なんだか意外!いつもスマートで大人の余裕がある感じなのに」
環奈の呟きに、めぐはいたたまれなくなった。
「ちょっとこれ、恥ずかし過ぎる。どうしてカットしてくれなかったんだろう」
「まあ、じっくり編集する時間がなかったんだろうな」
「そうだけど……。これじゃあ生放送と変わらないよ」
事前収録ならこちらが内容を確認する時間も取れるのだが、今回はアトラクションのオープンに合わせた為、当日撮影となった。
「仕方ないだろ?いつも生放送のつもりで撮影に臨むしかないよ」
弦の言葉にごもっともだと、めぐは頷く。
「だけどさ、そもそも私が絶叫マシンが苦手っていうのが問題だよね」
「うん、それは一理ある」
「これからも取材はあるだろうし、困ったなあ」
「めぐは無理して乗る必要ないよ。次回からは先方との打ち合わせの時に俺が上手くかわしておくから」
「そう?ごめんね。どうしてもの時は覚悟決めて乗るから」
「いや、また倒れたら大変だ。生放送でそんなシーンが流れたらそれこそ放送事故だしな」
「そ、そうだね」
想像しただけで恐ろしい。
ちょうどテレビでは、アトラクションを降りた3人が感想を言う場面になっていた。
「笑ってるけど顔が真っ白だな、めぐ。かなりヤバかっただろ?」
「うん。この時の記憶がほぼない」
「けど気力でなんとか持ちこたえたな。このあとOKの声がかかった瞬間、膝から崩れ落ちたんだよ」
「そうだったんだ。ありがとう、氷室くんがいてくれて助かった」
テレビの画面がスタジオに切り替わり、コメンテーター達が「乗ってみたいですね」など感想を言い合ってコーナーは終わった。
「雪村さん、氷室くん。今回もご苦労様。なかなか良い感じに取り上げてもらえたね」
課長が近づいて来て、めぐと弦は立ち上がる。
「はい、ありがとうございます」
「この調子で頼むよ。しばらくは新アトラクションについての取材が多い。スケジュールを確認しておいてくれ」
「かしこまりました」
課長を見送ると、めぐと弦は早速二人でスケジュールを確認し、取材内容や返答のセリフを話し合った。



