(うーん、本当にこのままって訳にはいかないよね)
出社して更衣室で制服に着替えながら、めぐは考え込む。
(勤務後に花束を受け取りに行った時に、支払いさせてもらおう)
長谷部は夜勤明けで帰っているかもしれないが、他のスタッフに事情を話せば大丈夫だろう。
そう思い、めぐは勤務後に再びホテルに向かった。
(えっ!長谷部さん、まだ勤務中なの?)
エントランスに入りロビーを横切ってフロントに行くと、カウンターで接客している長谷部の姿があった。
めぐは驚きつつ、少し離れた場所で見守る。
案内を終えてお辞儀をしながらゲストを見送った長谷部が、めぐに気づいてにこっと笑いかける。
隣のスタッフに声をかけてからフロントを出て来た。
「雪村さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。長谷部さん、夜勤明けでもうお帰りかと思ってました」
「ええ。朝の8時で勤務を終えて、仮眠室で休んでいました。今日はオフなのでもう帰ります」
「え?オフなのに、もしかして私を待っていてくださったのでしょうか」
「いえ、いつもの流れですよ。車で来ているので、夜勤明けは少し睡眠を取ってから帰るようにしているんです。お花を持って来ますので、ロビーのソファでお待ちいただけますか?」
「はい、分かりました」
長谷部はスマートな身のこなしで踵を返し、バックオフィスへと姿を消した。
めぐはふかふかのソファに座って、改めてロビーを見渡す。
夏休みが終わったばかりの平日のせいかそこまで混雑しておらず、ゲストの様子も比較的落ち着いた雰囲気だった。
(それにしても高級感でいっぱいだな、ここは。毎日こんな素敵な空間で働けたら、私も長谷部さんみたいな優雅な身のこなしを会得出来るのかな)
そんなことを思いながら待っていると、やがて私服らしいサマージャケット姿の長谷部が花束を持って戻って来た。
「雪村さん、お待たせしました」
めぐは立ち上がって花束を受け取る。
「ありがとうございます。とっても綺麗ですね」
改めて赤いバラに顔を寄せて微笑むと、すぐ近くで「素敵!」と声が上がった。
「いいなあ、私もプレゼントされたい」
彼氏におねだりしているらしい声が聞こえてきて、めぐは思わずうつむく。
(そういうのじゃないんだけど……)
すると長谷部が少し考える素振りのあと、めぐに尋ねた。
「雪村さん、もしよろしければご自宅まで車でお送りしましょうか?」
「ええ!?いえ、そんな。電車で帰りますので」
「でも電車の中で注目を集めてしまうかもしれません。私が差し上げたばかりにそんな思いをさせるのは心苦しいので、どうか送らせてください」
「いえ、本当に大丈夫ですから。それより長谷部さん、夕べのお支払いをさせてください」
「お気になさらず。というより、もう決済してしまったので今さら変更は出来ないのです」
「では私が長谷部さんにその分の金額をお支払いしますので」
食い下がると長谷部は困ったように眉根を寄せてから、めぐの背中に手を添えてエントランスへと促した。
「とにかくここを出ましょう。ゲストの目がありますので」
「あ、そうですね」
私服に着替えているが、恐らく支配人だと気づかれてしまうのだろう。
めぐは黙って長谷部に続いてホテルを出た。
出社して更衣室で制服に着替えながら、めぐは考え込む。
(勤務後に花束を受け取りに行った時に、支払いさせてもらおう)
長谷部は夜勤明けで帰っているかもしれないが、他のスタッフに事情を話せば大丈夫だろう。
そう思い、めぐは勤務後に再びホテルに向かった。
(えっ!長谷部さん、まだ勤務中なの?)
エントランスに入りロビーを横切ってフロントに行くと、カウンターで接客している長谷部の姿があった。
めぐは驚きつつ、少し離れた場所で見守る。
案内を終えてお辞儀をしながらゲストを見送った長谷部が、めぐに気づいてにこっと笑いかける。
隣のスタッフに声をかけてからフロントを出て来た。
「雪村さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。長谷部さん、夜勤明けでもうお帰りかと思ってました」
「ええ。朝の8時で勤務を終えて、仮眠室で休んでいました。今日はオフなのでもう帰ります」
「え?オフなのに、もしかして私を待っていてくださったのでしょうか」
「いえ、いつもの流れですよ。車で来ているので、夜勤明けは少し睡眠を取ってから帰るようにしているんです。お花を持って来ますので、ロビーのソファでお待ちいただけますか?」
「はい、分かりました」
長谷部はスマートな身のこなしで踵を返し、バックオフィスへと姿を消した。
めぐはふかふかのソファに座って、改めてロビーを見渡す。
夏休みが終わったばかりの平日のせいかそこまで混雑しておらず、ゲストの様子も比較的落ち着いた雰囲気だった。
(それにしても高級感でいっぱいだな、ここは。毎日こんな素敵な空間で働けたら、私も長谷部さんみたいな優雅な身のこなしを会得出来るのかな)
そんなことを思いながら待っていると、やがて私服らしいサマージャケット姿の長谷部が花束を持って戻って来た。
「雪村さん、お待たせしました」
めぐは立ち上がって花束を受け取る。
「ありがとうございます。とっても綺麗ですね」
改めて赤いバラに顔を寄せて微笑むと、すぐ近くで「素敵!」と声が上がった。
「いいなあ、私もプレゼントされたい」
彼氏におねだりしているらしい声が聞こえてきて、めぐは思わずうつむく。
(そういうのじゃないんだけど……)
すると長谷部が少し考える素振りのあと、めぐに尋ねた。
「雪村さん、もしよろしければご自宅まで車でお送りしましょうか?」
「ええ!?いえ、そんな。電車で帰りますので」
「でも電車の中で注目を集めてしまうかもしれません。私が差し上げたばかりにそんな思いをさせるのは心苦しいので、どうか送らせてください」
「いえ、本当に大丈夫ですから。それより長谷部さん、夕べのお支払いをさせてください」
「お気になさらず。というより、もう決済してしまったので今さら変更は出来ないのです」
「では私が長谷部さんにその分の金額をお支払いしますので」
食い下がると長谷部は困ったように眉根を寄せてから、めぐの背中に手を添えてエントランスへと促した。
「とにかくここを出ましょう。ゲストの目がありますので」
「あ、そうですね」
私服に着替えているが、恐らく支配人だと気づかれてしまうのだろう。
めぐは黙って長谷部に続いてホテルを出た。



