「綺麗だな……」

バルコニーから空に浮かぶランタンを見つめて、めぐはポツリと呟く。

「どんな願いも叶いそう。叶うのかな?私の願いも」

ランタンを作った時、願い事を書こうとして書けなかった。
心のままに描いたのはブルースターの絵。

(ずっと私を支えてくれた宝物。寂しいな……)

思わず胸元に手を当てる。
いつもそこにあったあのネックレス。
なくなって寂しいのはきっとネックレスだけではなく、弦との心の絆。

「……信じ合う心」

ブルースターの花言葉も、弦との絆も、急に自分の中から消えてしまった。
そのことがこんなにも寂しく心細いとは。

(きっと今まで頼り過ぎてたんだよね、氷室くんに。これからは一人でしっかりしなきゃ。氷室くんが好きになった人と結ばれて、幸せになるのを喜ばなきゃ)

そう自分に言い聞かせた時、気持ちとは裏腹に涙がこぼれ落ちた。

「どうして泣くのよ、こんなんじゃだめ」

けれどそう思えば思うほど、とめどなく涙は溢れてくる。

「何が悲しいの?どうして涙が出てくるの?」

泣きながら自分に問う。

「おかしいよ。だって私、失恋した訳でもないのに」

声に出してそう言い聞かせるが、涙は止まらない。
しゃがみ込み嗚咽をもらしながら、胸元をギュッと拳で握った。
気持ちを吐き出すように身体を震わせて泣き続ける。

その時、ふいにドアのチャイムが鳴った。
めぐはハッと我に返る。

(きっと長谷部さんだ)

慌てて涙を拭いて立ち上がり、気持ちを整えてからドアを開けた。
すると……

「えっ?」

目の前に大きな深紅のバラの花束があって、めぐは息を呑む。

(なに、どういうこと?)

呆然としながら花束を見つめていると、ふっと頭上で誰かが笑みをもらす気配がした。

「サプライズ、お好きではなかったですか?」

顔を上げると長谷部が気まずそうに笑っている。

「え?あの、このお花は?」
「あなたがひと晩過ごすお部屋を、少しでも明るく飾りたくて」

そう言うと長谷部は、めぐの顔を見てハッと目を見開いた。

「雪村さん、泣いてましたか?」
「え?いえ!あの。これは今、驚いて目が潤んだだけで」

咄嗟に顔をそむけるめぐを、長谷部は身を屈めて覗き込んだ。

「目が真っ赤です。冷やしましょう。ソファに座ってください」

有無を言わさずめぐをソファに促すと、アイスペールから氷を取り出してタオルにくるむ。
めぐの隣に座ると左手でめぐの首の後ろを支え、右手に持ったタオルでめぐの目を冷やした。

「少し冷たいですよ」
「はい。……気持ちいい」
「気持ちいいのは充血している証拠です。明日もお仕事ですよね?取材を受けるのに、目が腫れたら大変だ」
「確かに。ありがとうございます、長谷部さん」