「雪村さん、氷室さん」
「長谷部さん!」
クルーザーを降りて広報用の写真を遠目に撮っていると、後ろから長谷部に声をかけられた。
「お疲れ様です。取材ですか?もしよかったら、ホテルの最上階から撮影してはどうでしょう」
「え、よろしいのでしょうか?」
めぐが控えめに尋ねると、長谷部は穏やかに笑った。
「もちろん。ご案内しますよ」
「はい、ありがとうございます」
めぐは弦と一緒に長谷部のあとをついて行く。
エレベーターで最上階の7階に着くと長谷部は廊下を進み、中央の談話スペースで立ち止まった。
「こちらがちょうど正面になると思います。窓はほんの少しだけなら開くので」
そう言うとガラス窓のレバーを押して角度をつける。
「ここから撮影出来ますか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
弦がお礼を言って窓に近づき、隙間から空に浮かぶランタンの写真を撮る。
「本当に綺麗ですよね、このランタン」
弦の隣で長谷部がめぐに話しかけた。
「はい、とっても。今夜で終わりだなんて寂しいです。フェスティバルの期間中、このランタンにはすごく癒やされましたから」
しんみりとした口調のめぐに、長谷部は思案してから尋ねる。
「雪村さん、何かありましたか?」
「え?どうしてですか?」
めぐは長谷部に首を傾げてみせた。
「いえ、あの。なんだか少し元気がないような気がして……」
「そうでしょうか」
そう言ってめぐは再びランタンに目を向ける。
「私、本当に寂しくて。毎晩このランタンに励まされたので、明日からもう見られないのかと思うと……」
めぐの呟きに、弦はギュッと胸が締めつけられる。
思わず歩み寄って抱きしめたくなった時、ふいに長谷部がめぐに向き直った。
「雪村さん、今夜ひと部屋ホテルに空きがあるんです。どうぞ泊まっていってください」
ええ!?とめぐは驚きの声を上げる。
「客室から心ゆくまでランタンを眺めてください」
「でも……。これから宿泊をご希望のゲストがいらっしゃるかもしれませんし」
「雪村さんだって、立派なホテルのゲストです。雪村さんに泊まっていただけたら、客室もランタンも喜びますよ」
めぐは一瞬ぽかんとしたあと、クスッと笑う。
「やっぱり長谷部さん、ロマンチストですね」
「そうかな?普通ですよ」
「ふふ、自覚がないところが素敵です」
「否定したいけど、あなたが笑ってくれたからそういうことにしておきます」
え?とめぐが聞き返すが、長谷部は気にせず弦にも声をかけた。
「氷室さんもご一緒にどうぞ。ダブルのお部屋ですから」
それを聞いてめぐは慌てて口を開いた。
「長谷部さん、私達つき合ってないんです」
「えっ!そうでしたか。私はてっきり……」
「なので、よろしければ私だけ泊まらせていただいても構いませんか?」
「それはもちろん」
「ありがとうございます。では勤務後にまた参ります」
「はい。フロントでお待ちしております」
長谷部に見送られて、めぐは弦と一緒に事務所へと歩き出した。
「あ、ごめん。私、気が利かなかったね。もし氷室くんが泊まりたければ、好きな人誘って泊まる?」
歩きながらそう聞いてくるめぐに、弦は固い表情で首を振る。
「いや、めぐが泊まってくれ」
「そう?私のことは気にしなくていいよ」
「俺、その人のこと誘えないから」
「え、でも……。絶好のチャンスだと思うよ?泊まらなくても、お部屋からランタンを見ようって。あ、それもなんか女の子は警戒しちゃうかな」
「ああ。だからめぐに泊まってほしい」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて。ランタンに見とれて眠れないかもなあ。明日寝不足で使い物にならないように気をつけなきゃ」
そう言って笑ってみせるめぐは、明らかに無理をしている。
それが分かって弦はまた胸が痛んだ。
「長谷部さん!」
クルーザーを降りて広報用の写真を遠目に撮っていると、後ろから長谷部に声をかけられた。
「お疲れ様です。取材ですか?もしよかったら、ホテルの最上階から撮影してはどうでしょう」
「え、よろしいのでしょうか?」
めぐが控えめに尋ねると、長谷部は穏やかに笑った。
「もちろん。ご案内しますよ」
「はい、ありがとうございます」
めぐは弦と一緒に長谷部のあとをついて行く。
エレベーターで最上階の7階に着くと長谷部は廊下を進み、中央の談話スペースで立ち止まった。
「こちらがちょうど正面になると思います。窓はほんの少しだけなら開くので」
そう言うとガラス窓のレバーを押して角度をつける。
「ここから撮影出来ますか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
弦がお礼を言って窓に近づき、隙間から空に浮かぶランタンの写真を撮る。
「本当に綺麗ですよね、このランタン」
弦の隣で長谷部がめぐに話しかけた。
「はい、とっても。今夜で終わりだなんて寂しいです。フェスティバルの期間中、このランタンにはすごく癒やされましたから」
しんみりとした口調のめぐに、長谷部は思案してから尋ねる。
「雪村さん、何かありましたか?」
「え?どうしてですか?」
めぐは長谷部に首を傾げてみせた。
「いえ、あの。なんだか少し元気がないような気がして……」
「そうでしょうか」
そう言ってめぐは再びランタンに目を向ける。
「私、本当に寂しくて。毎晩このランタンに励まされたので、明日からもう見られないのかと思うと……」
めぐの呟きに、弦はギュッと胸が締めつけられる。
思わず歩み寄って抱きしめたくなった時、ふいに長谷部がめぐに向き直った。
「雪村さん、今夜ひと部屋ホテルに空きがあるんです。どうぞ泊まっていってください」
ええ!?とめぐは驚きの声を上げる。
「客室から心ゆくまでランタンを眺めてください」
「でも……。これから宿泊をご希望のゲストがいらっしゃるかもしれませんし」
「雪村さんだって、立派なホテルのゲストです。雪村さんに泊まっていただけたら、客室もランタンも喜びますよ」
めぐは一瞬ぽかんとしたあと、クスッと笑う。
「やっぱり長谷部さん、ロマンチストですね」
「そうかな?普通ですよ」
「ふふ、自覚がないところが素敵です」
「否定したいけど、あなたが笑ってくれたからそういうことにしておきます」
え?とめぐが聞き返すが、長谷部は気にせず弦にも声をかけた。
「氷室さんもご一緒にどうぞ。ダブルのお部屋ですから」
それを聞いてめぐは慌てて口を開いた。
「長谷部さん、私達つき合ってないんです」
「えっ!そうでしたか。私はてっきり……」
「なので、よろしければ私だけ泊まらせていただいても構いませんか?」
「それはもちろん」
「ありがとうございます。では勤務後にまた参ります」
「はい。フロントでお待ちしております」
長谷部に見送られて、めぐは弦と一緒に事務所へと歩き出した。
「あ、ごめん。私、気が利かなかったね。もし氷室くんが泊まりたければ、好きな人誘って泊まる?」
歩きながらそう聞いてくるめぐに、弦は固い表情で首を振る。
「いや、めぐが泊まってくれ」
「そう?私のことは気にしなくていいよ」
「俺、その人のこと誘えないから」
「え、でも……。絶好のチャンスだと思うよ?泊まらなくても、お部屋からランタンを見ようって。あ、それもなんか女の子は警戒しちゃうかな」
「ああ。だからめぐに泊まってほしい」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて。ランタンに見とれて眠れないかもなあ。明日寝不足で使い物にならないように気をつけなきゃ」
そう言って笑ってみせるめぐは、明らかに無理をしている。
それが分かって弦はまた胸が痛んだ。



