8月31日。
ランタンフェスティバル最終日を迎えた。

日を追うごとに参加希望者が増え、ここ10日間は朝から整理券を配布するほど好評を博していた。
最終日はフィナーレということで、ランタンのリリースに合わせてレーザーショーも行われることになっている。

日が暮れると、めぐと弦は取材と手伝いの為にキャナルガーデンに向かった。
めぐは笑顔で小さな子ども達にランタン作りをレクチャーし、自分もランタンを作る。
時間になるとクルーザーの乗り場に移動して、ゲストと一緒に乗り込んだ。

照明を落としたキャナルガーデンに、ゆっくりとクルーザーが進んでいく。
いつもはアナウンスの声だけだが、今夜はレーザーが華やかに宙を照らし、音楽と共に雰囲気を盛り上げる。

「いよいよランタンフェスティバルのフィナーレです。オレンジ色に輝くたくさんのランタンが、夜空に浮かび上がります。皆様の願いが叶いますように……。それではまいりましょう。3、2、1、リリース!」

ランタンが一斉に夜空に舞い上がり、わあっ!と歓声が上がる。
めぐも手にしていたランタンを、そっと浮かび上がらせた。
何気なくランタンを目で追った弦はハッとする。
めぐのランタンには、小さな花の絵が描かれていた。
あれはきっと、そう。
ブルースターに違いない。

弦は再び隣にいるめぐに視線を移す。
舞い上がるランタンを見つめて微笑むその横顔は優しく清らかで、切なさや寂しさ、様々なめぐの気持ちが感じ取れた。

(めぐ……)

思わず手を伸ばし、大丈夫だと抱きしめたくなる。
いつもみたいに笑ってほしい。
明るいめぐに戻ってほしい。

めぐの幸せを願って「恋人同盟」を解消した。
だが今になって、後悔の念が押し寄せてくる。

(自分でも気づかなかった。俺はいつの間にかこんなにも、めぐのことが好きだったんだ)

恋人のフリをしていたから勘違いをしたのではない。
めぐと離れてみて、ようやくめぐへの気持ちを思い知った。

だがやはり「恋人同盟」は解消して良かったのだ。
あのままズルズルと、なし崩し的に告白するのはどこか卑怯だ。
一度離れて他の男性と同じ立ち位置に戻ったあと、改めて気持ちを伝えるべきだから。

そうだ、これから告白しよう。
真剣に想いを伝えよう。
そしてあのブルースターのネックレスをめぐに返そう。
自宅にしまってある、めぐの大切な宝物を。

弦はそう心に決めると、めぐと肩を並べて美しいランタンを見上げていた。