「氷室さん?」

めぐを残して部屋をあとにし、ロビーに下りてエントランスに向かう弦を、長谷部が後ろから呼び止めた。

「こんな遅くに外出ですか?」
「いえ、あの。私は事務棟の仮眠室に行きます。明日、雪村がチェックアウトしますので」
「……そうですか、かしこまりました」

事情なんて分かりっこないだろうが、長谷部は余計な詮索はせずに頷いた。

「よろしくお願いします。長谷部さん、お部屋を手配してくださってありがとうございました」
「いえ、とんでもない。お誕生日おめでとうございます、氷室さん」
「ありがとうございます。それでは」

会釈をして、弦は足早にホテルを出る。
一度立ち止まって綺麗なランタンをじっと見つめてから、事務棟へと再び歩き始めた。