オードブルとケーキを食べ終えると、シャンパンを飲みながらバルコニーでランタンを眺める。

「本当に幻想的だよね。夢の世界にいるみたい」

めぐは目を輝かせながらうっとりと呟く。
弦はしばらくランタンの写真を撮っていたが、ふと思い立って少し下がり、めぐとランタンの構図がいい角度から何枚か写真を撮った。

「めぐ」
「ん?」
「今日はありがとな、こんなに色々用意してくれて」

弦が改めてお礼を言うと、めぐはふふっと笑う。

「どういたしまして。氷室くんのお祝いにかこつけて、私が楽しんじゃった」
「いや、めぐの気持ちがありがたいし、何より嬉しいよ。こんなふうに祝ってもらえるなんて、忘れられない誕生日になった」
「そう?それなら良かった。あ、氷室くんはこのままこのお部屋に泊まってね」

すると弦は急に真顔に戻り、は?と聞き返す。

「俺がここに泊まるのか?めぐは?」
「私はもう少ししたら帰るよ」
「え、そんな。めぐが泊まればいい。俺が帰るから」
「だめだよ。氷室くんのお祝いなんだから、そんなお粗末な結末は良くない」
「なんだそれ?いいからめぐが泊まれ。男が一人でホテルに泊まっても、ロマンチックでも何でもない」
「別にロマンチックでなくてもいいじゃない。ランタン見ながらふかふかのベッドで休んで」
「それならめぐの方がよっぽど満喫出来るって」

一向に頷かない弦に、めぐはむーっと拗ねる。

「ここのお泊りも込みでお祝いなの!いいから大人しく最後まで受け取って」
「もう充分だ。それにこんなに夜遅くに、めぐを一人で帰らせるなんて出来ない」
「あ、それなら私、事務棟の仮眠室で寝ることにする。それならいいでしょ?」
「ますます良くない!俺が仮眠室で寝る」
「もうー!頑固にもほどがあるよ?氷室くん」
「そのセリフ、そっくりそのままめぐに返す」

だんだんヒートアップする会話に、めぐは引くに引けなくなった。

「それなら勝負しよう。先に寝ちゃった方が負け。勝った人は事務棟に移動する。これならどう?」
「いいぜ。俺、絶対負けないから」
「私だって!ランタン眺めながらひと晩中起きてられるもんね」

バチバチと睨み合い、真剣勝負が始まった。