初めてのランタンフェスティバルは大盛況だった。
ゲストは感激の面持ちで写真を撮り、SNSに投稿する。
ヨーロッパの街並みを背景に浮かび上がるたくさんのランタンの写真に「ここどこ?」と多くのコメントが寄せられ、注目を集めた。

やがて時間になり、ランタンを持ち帰りたいゲストは糸を手繰り寄せ、このまま浮かばせておきたいゲストはスタッフに持ち手を預けてクルーザーを降りる。
美しいランタンの様子は、明日の明け方まで楽しめることになっていた。

「めぐ、全体の写真をホテルから撮影させてもらおうか」
「うん、長谷部さんに話はしてあるから。その前に事務所に戻って帰る支度してから行こうか」
「そうだな」

めぐの提案に、弦は特に考える素振りもなく頷く。
めぐはこのあとの流れを考えてそわそわし始めた。

「ではお先に失礼します」

事務所で課長達に声をかけてから、二人でホテルに向かった。
キャナルガーデンは、まだまだ多くのゲストが写真を撮ろうと賑わっている。

「氷室くん、ここで少し待っててね」

ホテルのロビーに入ると弦にそう言い残し、めぐはフロントでチェックインを済ませた。
するとめぐに気づいた長谷部が近づいて来る。

「雪村さん、こんばんは。たった今お部屋にご注文の品を全て届けました」
「ありがとうございます、長谷部さん」
「いいえ、どうぞ素敵な夜を」

にこやかに見送られて、めぐは弦のもとへ戻った。
エレベーターで客室フロアに上がり、廊下を真ん中まで進んだところの客室に入る。

「ちょうどキャナルガーデンの正面かな?」

そう言いながら、弦はめぐの開けたドアから部屋に足を踏み入れた。
そして……。

「えっ、ちょっと、なんだ?どういうこと?」

弦はテーブルの上に目を落としたまま固まる。
めぐは弦の背中から顔を覗かせた。
オーダーした通り、アイスペールに入ったシャンパンのボトルと透明のケースで覆ったホールケーキ、軽食のオードブルが置かれている。

「ふふっ、お誕生日おめでとう!ランタンを眺めながらお祝いしようと思って」
「えっ!これって、めぐが用意してくれたのか?」
「うん、そう。長谷部さんにお願いして、客室のキャンセル拾いしてもらったんだ。氷室くん、写真は後まわしにして早速お祝いしよう。ほら、座って」

弦はまだ実感が湧かないようで、めぐに促されるまま席に着く。
めぐは「Happy Birthday!弦」とチョコプレートに書かれたケーキにロウソクを立てて、マッチで火を点ける。
シャンパンのボトルを開けてグラスに注ぐと、弦に手渡した。

「それでは、氷室くん。26歳のお誕生日おめでとう!」
「ありがとう。なんか、こんなことになってるなんて思ってもみなくて。色々大変だったんだろ?ごめんな」
「ううん。本音を言うと、私がランタンフェスティバルをお部屋からゆっくり楽しみたかったのもあるんだ。えへへ。だから気にしないで。ほら、乾杯!」

笑顔でグラスを合わせ、弦がロウソクを吹き消す。
めぐは改めて拍手を送った。