「氷室くん、そろそろ行こう!」
ランタン作りの受付が開始される時間になると、めぐは意気揚々と立ち上がる。
「はいはい、行きますよー。って、めぐ!置いてくな」
そそくさと事務所を出るめぐを、弦も撮影用のスマートフォンを手に追いかけた。
「すごい、賑わってるね」
「ああ」
キャナルガーデンの特設テントには多くのゲストが詰めかけ、スタッフが忙しそうにレクチャーやガスの充填作業をしている。
記録用に何枚か写真を撮ると、めぐと弦もスタッフを手伝うことにした。
ゲストは楽しそうにランタンに願い事や絵を描いていく。
「可愛いランタンが出来たね。じゃあ船に乗ってお空に放つから、それまではギュッて持っててね」
めぐが5歳くらいの女の子に、ガスで膨らんだランタンを手渡す。
ランタンにはチューリップやハートの絵がたくさん描かれていた。
女の子は嬉しそうに受け取って、めぐに「ありがとう!」と笑いかける。
どういたしまして、とめぐも笑顔で答えた。
(はあ、なんだかとっても幸せ。笑顔が溢れてて、なんて素敵なひとときなの)
めぐがこの仕事を選んだのは、まさにこんなふうに笑顔が溢れる毎日に身を置きたかったから。
この仕事をしていて良かったと心から思い、めぐはそのあともランタン作りを手伝った。
いつの間にか陽は沈み、辺りは夕闇に包まれ、パークのあちこちにほのかな明かりがともされる。
ランタンを持ったゲストは、運河のほとりのクルーザー乗り場に移動することになった。
めぐもランタンを手に、弦と一緒にクルーザーに乗り込む。
時間になりパークのBGMが消え、華やかな音楽が流れ始めた。
「Good evening everyone! Welcome to 『Graceful World』さあ、いよいよランタンフェスティバルの開幕です。今宵、あなたの願いが空へと放たれ、世界を美しく彩ります」
パークに響き渡るアナウンスに、ゲストの期待と興奮も頂点に達する。
「皆様、どうぞキャナルガーデンの運河にご注目ください。クルーザーがゆっくりとやって来ました」
めぐやゲストを乗せたクルーザーは乗り場を離れ、終着点のキャナルガーデンへと向かう。
多くのゲストが集まって手すりから運河を見下ろし、クルーザーのゲストに向かって手を振っている。
めぐ達スタッフやゲストも笑顔で手を振り返した。
やがてクルーザーは、行き止まりとなった運河の中央に停まる。
「美しい夜空に皆様の願いが放たれます。どうか叶いますように……。それではいよいよランタンリリースです」
アナウンスのあと、音楽と周辺の照明がぐっと落とされた。
誰もが固唾を呑んでその瞬間を待つ。
めぐもドキドキしながらランタンを持つ手に力を込めた。
カウントダウンが始まる。
「3、2、1、リリース!」
一斉にランタンが空へと放たれる。
めぐも両手をそっと空に掲げてランタンを浮かび上がらせた。
「わあ……」
声にならないため息がもれる。
オレンジ色のランタンが次々と空に舞い上がり、幻想的な世界が広がった。
「なんて綺麗なの。夢みたい……」
両手を組んで、めぐはうっとりと呟く。
写真を撮っていた弦も、ようやく自分の目で見上げた。
「ああ、綺麗だな」
「うん、本当に素敵」
瞬きも忘れて見とれるめぐの瞳に、いつの間にか涙が込み上げてきた。
「めぐ、水面を見て」
「え?」
弦に声をかけられて、めぐは視線を落とした。
次の瞬間、思わず息を呑む。
空に浮かんだランタンが水面に反射して、まるで足元に空が広がっているようだった。
更にはスタッフが岸からランタンをいくつも水面に浮かべ始め、本当にどちらが空なのか分からない。
「私、空を飛んでる?」
ポツリと呟くめぐの言葉に、弦も頷く。
「まさにそんな感じがする。すごいな」
「うん、素敵。とっても綺麗……」
ランタンの明かりに照らされためぐの横顔は、優しい微笑みを浮かべていて美しい。
弦はそんなめぐから視線をそらすことが出来なかった。
ランタン作りの受付が開始される時間になると、めぐは意気揚々と立ち上がる。
「はいはい、行きますよー。って、めぐ!置いてくな」
そそくさと事務所を出るめぐを、弦も撮影用のスマートフォンを手に追いかけた。
「すごい、賑わってるね」
「ああ」
キャナルガーデンの特設テントには多くのゲストが詰めかけ、スタッフが忙しそうにレクチャーやガスの充填作業をしている。
記録用に何枚か写真を撮ると、めぐと弦もスタッフを手伝うことにした。
ゲストは楽しそうにランタンに願い事や絵を描いていく。
「可愛いランタンが出来たね。じゃあ船に乗ってお空に放つから、それまではギュッて持っててね」
めぐが5歳くらいの女の子に、ガスで膨らんだランタンを手渡す。
ランタンにはチューリップやハートの絵がたくさん描かれていた。
女の子は嬉しそうに受け取って、めぐに「ありがとう!」と笑いかける。
どういたしまして、とめぐも笑顔で答えた。
(はあ、なんだかとっても幸せ。笑顔が溢れてて、なんて素敵なひとときなの)
めぐがこの仕事を選んだのは、まさにこんなふうに笑顔が溢れる毎日に身を置きたかったから。
この仕事をしていて良かったと心から思い、めぐはそのあともランタン作りを手伝った。
いつの間にか陽は沈み、辺りは夕闇に包まれ、パークのあちこちにほのかな明かりがともされる。
ランタンを持ったゲストは、運河のほとりのクルーザー乗り場に移動することになった。
めぐもランタンを手に、弦と一緒にクルーザーに乗り込む。
時間になりパークのBGMが消え、華やかな音楽が流れ始めた。
「Good evening everyone! Welcome to 『Graceful World』さあ、いよいよランタンフェスティバルの開幕です。今宵、あなたの願いが空へと放たれ、世界を美しく彩ります」
パークに響き渡るアナウンスに、ゲストの期待と興奮も頂点に達する。
「皆様、どうぞキャナルガーデンの運河にご注目ください。クルーザーがゆっくりとやって来ました」
めぐやゲストを乗せたクルーザーは乗り場を離れ、終着点のキャナルガーデンへと向かう。
多くのゲストが集まって手すりから運河を見下ろし、クルーザーのゲストに向かって手を振っている。
めぐ達スタッフやゲストも笑顔で手を振り返した。
やがてクルーザーは、行き止まりとなった運河の中央に停まる。
「美しい夜空に皆様の願いが放たれます。どうか叶いますように……。それではいよいよランタンリリースです」
アナウンスのあと、音楽と周辺の照明がぐっと落とされた。
誰もが固唾を呑んでその瞬間を待つ。
めぐもドキドキしながらランタンを持つ手に力を込めた。
カウントダウンが始まる。
「3、2、1、リリース!」
一斉にランタンが空へと放たれる。
めぐも両手をそっと空に掲げてランタンを浮かび上がらせた。
「わあ……」
声にならないため息がもれる。
オレンジ色のランタンが次々と空に舞い上がり、幻想的な世界が広がった。
「なんて綺麗なの。夢みたい……」
両手を組んで、めぐはうっとりと呟く。
写真を撮っていた弦も、ようやく自分の目で見上げた。
「ああ、綺麗だな」
「うん、本当に素敵」
瞬きも忘れて見とれるめぐの瞳に、いつの間にか涙が込み上げてきた。
「めぐ、水面を見て」
「え?」
弦に声をかけられて、めぐは視線を落とした。
次の瞬間、思わず息を呑む。
空に浮かんだランタンが水面に反射して、まるで足元に空が広がっているようだった。
更にはスタッフが岸からランタンをいくつも水面に浮かべ始め、本当にどちらが空なのか分からない。
「私、空を飛んでる?」
ポツリと呟くめぐの言葉に、弦も頷く。
「まさにそんな感じがする。すごいな」
「うん、素敵。とっても綺麗……」
ランタンの明かりに照らされためぐの横顔は、優しい微笑みを浮かべていて美しい。
弦はそんなめぐから視線をそらすことが出来なかった。



