恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜【書籍化】

その日の仕事終わり、弦はめぐと「辻褄合わせの会」をしようと夕食を食べに行くことになった。
行きつけの居酒屋に入り、ビールで乾杯する。

「今日はね、焼き鳥の気分!どんどん焼いてー、じゃんじゃん食べちゃう!」
「おい、めぐ。酔うの早くないか?」
「酔ってないよ。お腹がぺこぺこなだけ」
「やれやれ、ほんとにお前は色気より食い気だな」
「どういたしまして」
「いや、褒めてないから」

あはは!と明るく笑うめぐは自分のよく知るめぐで、弦はホッとする。
だがふと、環奈に見せられたカタログの写真を思い出した。
純白のウエディングドレスに身を包み、手にしたブーケに視線を落として微笑んでいるめぐの写真。
ひと目見て息を呑んだ。

(いつものめぐは明るく笑ってる顔が印象的だけど、実際は美人で気品に溢れてるんだよな)

めぐが椅子に置いたバッグに目をやると、中にカタログが入っているのが少し見える。

(もっと写真を見てみたいような、見たくないような)

そもそもどうして自分がそんな気持ちになるのか分からない。
いつの間にか自分は、めぐに対して一歩引いた冷静な気持ちを持てなくなったのだろうか?
恋人のフリをしているのだから、あの写真を見た時「やっぱり君は綺麗だね」くらいのセリフを言った方が良かったのに。

(いや、まあ、俺ってもともとそういうキザなセリフを言うタイプじゃないからな。だけどそれにしても、最近めぐに対する気持ちがなんか変だ)

思い返せば、めぐがドレスモデルをやるという話になった頃からだろうか?
なぜだかもやっとし始めた。
自分の知らないところで長谷部と話し、めぐは自分に相談することなくモデルを引き受けた。
そして仕上がった写真は、自分もまだ知らないめぐの美しいウエディングドレス姿だった。

(なんでそれがもやっとする?彼氏でもないのに。フリを続けていたら、いつの間にか本当の彼氏だと勘違いするようになったのか?俺は)

だとしたら浅はかすぎる。
冷静に一歩引いたところで、客観的にめぐと接しなければ。
うつむいて考え込んでいると、めぐが声をかけてきた。

「氷室くん、最近は何かあった?辻褄合わせること」
「ああ、えっと。環奈から聞かれたことくらいかな?来月俺の誕生日だけど、プレゼントは何をもらうんだって」
「環奈ちゃん、好きだね、その質問」
「ほんとだよな。で、俺からは何もリクエストしてないって答えておいた」
「そしたら、雪村さん、内緒で用意するつもりなんですねーって?」
「まさにそう言ってた」

めぐは「やっぱり?」と言って、焼き鳥を片手に笑う。

「でもめぐ、別に用意してくれなくていいからな。誕生日終わってまた聞かれたら、適当にごまかしておくから」
「そう?分かった。なんて答えたか、また教えてね。じゃあいつもの確認。氷室くん、好きな人出来た?」
「…………いや」
「私も、って待って!今氷室くん、なんか溜めてから答えたよね?そのタメは何?」
「別になんでもないよ。焼き鳥飲みこんでただけ」
「あ、そうなんだ。それならいいけど。じゃあ引き続き、恋人同盟よろしくね」

ああ、と答えながら弦は自問自答していた。

(ほんとだよ、俺。何だよ?今のタメは。なんで躊躇した?好きな人って言葉になんか反応した?)

いかんいかん、冷静に一歩引いて、と己に言い聞かせ、弦はビールをグイッと煽った。