恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜【書籍化】

「戻りました」

長谷部と別れて事務所に戻ると、環奈が顔を上げてめぐが手にしていたカタログに目を向ける。

「あっ、雪村さん!それってひょっとして、ドレスのカタログですか?見せてください!」
「いや、ちょっと。恥ずかしいから無理」
「えー、どうしてですか?それなら長谷部さんにもらいにいこうっと」

立ち上がろうとする環奈を、めぐは慌てて止めた。

「わ、分かったから。じゃあちょっとだけね」

めぐは渋々カタログを環奈に差し出す。

「わあー、表紙から超絶美しい雪村さんが!見て、氷室さん」

そう言って環奈は、斜め向かいのデスクの弦にカタログを掲げて見せた。

「ちょっと、環奈ちゃん!」

手で遮ろうとすると、顔を上げた弦は驚いたように写真に見入っている。

「これ、ほんとにめぐ?」
「え、そうだけど」
「化けたなー。こんなに変わるんだ」
「ちょっと、どういう意味?」

すると環奈が「まあまあ」と取りなす。

「氷室さんたら照れちゃって。素直に言ってくださいよ、君がとびきり美人で驚いたって」
「いや、素直に言ってる。見事に化けたなーって」
「氷室さん!もう、女の子にそんな言い方しちゃだめです。二人きりの時には素直になってくださいね。こんなに綺麗な君を独り占めしたい。誰にも見せたくないよ、なーんて!」

そして環奈は他のページもぺらぺらとめくり始めた。

「このAラインのドレス、雪村さんにお似合いでとってもいいですね。カラードレスも素敵!ああー、本当にどれも美しいです。氷室さんはあとでじっくりと雪村さんに見せてもらってくださいね。二人きりの時に見たらきっとラブラブな雰囲気になると思います。ふふっ」

いやいや、ならないし。なんなら見せないし、と思いながら、めぐは環奈からカタログを受け取った。

「これ、長谷部さんから皆さんにって差し入れいただいたの」

そう言って、皆のデスクにマドレーヌを配る。

「本当に優しいですよね、長谷部さんって。品があってジェントルマンで。んー、美味しい!」

頬に手を当てて、環奈は嬉しそうにマドレーヌを頬張っている。

「氷室くんもどうぞ。あ、今コーヒー淹れるね。環奈ちゃんにも」

めぐは給湯室に向かい、コーヒーを3人分淹れて戻る。
長谷部の差し入れのマドレーヌは、コクのあるバター風味と程よい甘さで美味しかった。

(わざわざ広報課の人数分差し入れしてくれるなんて、長谷部さん本当にいい人)

ドレスモデルは気恥ずかったが、お手伝い出来て良かったと、めぐは思った。