撮影の次の日からは、めぐも通常業務に戻った。
いつものように取引先と連絡を取り合いながら、イベントの告知や情報のリリース、資料のアップテートをしていく。

梅雨入りすると雨の日が続き、しばらく客足が遠のいた。
めぐはどうすればゲストが来てくれるかを考え、ふと思いつく。

「氷室くん、梅雨明けまではSNSの更新に力を入れない?雨の日でも楽しめるスポットとか、混雑状況をこまめにアップするの」
「ああ、いいな。パークも空いてるから、写真も撮りやすそうだし」
「うん。あと工事中のイベント会場の確認もしたい」
「確かに。よし、早速行くか」

課長に声をかけてから資料を手に、二人で雨模様のパーク内を探索する。

「あじさいが綺麗だから、まずはこれをアップしようかな」

めぐが撮影する間、弦がめぐの頭上に傘をかざして見守った。

「ありがとう。雨の日もなんだか風情があっていいね」
「そうだな。空いてるパークをのんびり回るのもいいし、アトラクションも待ち時間が少ないからたくさん乗れる」
「うん。そう思うと雨の日は貴重だよね」

夏休みに合わせたイベント「世界遺産を巡る旅」の準備も着々と進み、あちこちで作業が行われていた。
実際に世界遺産を訪れたようなリアリティーある写真スポットになるらしい。
資料をめくりながら場所をチェックし、全てのスポットを確認すると、めぐはふと思い出して弦に話しかけた。

「ねえ、夏休みのナイトイベントが追加で発表されたじゃない?」
「ああ、『ランタンフェスティバル』だっけ?」
「そう、楽しみだよね。ゲストにイラストを描いてもらったランタンを浮かべるんだって、会場のキャナルガーデンの水面に」
「あと空にも浮かべるらしいぞ」
「ええ!?どうやって?」

めぐは驚いて弦を見上げる。

「空に飛ばすの?そんなことしていいの?」
「飛んでけーって飛ばす訳じゃないよ。LEDライトで光らせたランタンにヘリウムガスを入れて空に放つんだ。重りをつけて10メートル前後を目安に浮かばせるんだって。巻き取り用の糸で手繰り寄せれば回収出来るから、イベント後はゲストに持ち帰ってもらうらしい」
「そうなの?素敵!もう想像しただけでわくわくしちゃう。私達も広報の取材で立ち会えるかな?」
「それはもちろん。記事にしないといけないし、SNSにもアップするから写真も撮らなきゃな」
「うん!楽しみだね」

満面の笑みを浮かべるめぐに、弦も頬を緩めた。

(子どもみたいに無邪気だな。この間のドレス姿とは別人だ)

めぐの魅力は一体いくつあるんだろう?
ふとそんなことが弦の頭をよぎる。

「ランタン、私もお願いごと書いて飛ばそうかな」

傘をくるっと回しながら微笑むめぐの横顔を、弦は優しく見つめていた。