「氷室さん、12時になりましたよ。行きましょ!」

時計の針が重なった途端、待ってましたとばかりに環奈が立ち上がる。
乗り気でないまま、弦は環奈に連れられてホテルに向かった。

「えっと、写真スタジオは3階ですね」

案内表示を確認して環奈がエレベーターのボタンを押す。
3階に着くと、長い廊下の先にホテルスタッフが数人固まっているのが見えた。
開け放たれたドアの中に目をやり、うっとりと見とれている。

「あそこですね!」

環奈がタタッと小走りに近づき、部屋の中を覗き込んで感嘆の声を上げた。

「わあ、素敵!なんて綺麗なの」

弦も環奈に歩み寄り、隣に並んでスタジオの中を見てみた。
次の瞬間、驚いて目を見開く。
真紅のバラのようなドレスに身を包んだめぐが、手にブーケを持ち、カメラに向かって微笑んでいた。
その存在感と輝くオーラに、弦は何も考えられなくなる。
単なる美人というだけではない。
めぐは見る者を魅了し、惹きつける魅力に溢れていた。

美しく高貴で、キラキラと輝いていて清らかで……。
いつも気軽に話しているめぐが、今は自分の手の届かない所にいる。
そう感じて、弦は思わず視線を落とす。
もっと見ていたい。
だが見ているうちに辛くなってきた。

「環奈、俺そろそろ戻るな。昼メシ食べたいし」
「えー、もう?」
「環奈はゆっくりしててくれ。じゃあ」

弦は環奈に背を向けると、足早にエレベーターホールに引き返した。