それから数日経っても、特にめぐのモデルの話題にはならなかった。
なんとなく忘れかけた頃、当日を迎える。
「じゃあ氷室くん、申し訳ないけど色々よろしくお願いします」
「ああ、こっちのことは任せてくれ。あとで報告するから」
「ありがとう。それでは行ってきます」
周りの人に挨拶してから、めぐは事務所を出て行った。
弦は今日のスケジュールを確認すると、順番にこなしていく。
年中無休のパークに合わせて、普段から社員はシフト制で勤務している。
めぐと弦のどちらかがオフの日はスケジュールも少なめにしているのだが、今日はもともと二人体制のはずだったから仕事量も多く組んでいた。
それを一人でこなさなければならない。
弦は集中して手際良く済ませていった。
定時近くになり「ただいま戻りました」とめぐの声がして、弦は顔を上げる。
「わあ!雪村さん、すごく綺麗」
環奈が感激したように呟き、弦も驚いて目を見開いた。
朝と同じブラウスとスカートの私服姿のめぐは、髪型とメイクだけが違っていた。
もともと白い肌が更に透き通るようで、目元はくっきりと、頬や唇は華やかに色づいている。
サイドに流した前髪と、毛先を巻いてアップに整えたヘアスタイルで、まるでテレビの中の芸能人が目の前に現れたようだった。
言葉もなく見とれていると、めぐが弦に尋ねる。
「氷室くん、今日はありがとう。大丈夫だった?」
「え……、ああ、大丈夫」
「そう、良かった。旅行雑誌に載せる紹介文、先方のOKもらえた?」
「うん、取り敢えずこれでいこうって。写真を挿入してから文字数を調整することになってる」
「分かった、ありがとう。明日も一人でお願いすることになるんだけど、よろしくね」
「おお、任せとけ」
そしてふと弦は気づいた。
毎日着けてくれているブルースターのネックレスが、めぐの胸元にないことを。
更にめぐが遠い存在になったように感じて、弦は戸惑う。
すると環奈がめぐに話しかけた。
「ね、雪村さん。どんな感じでしたか?ウエディングドレスのモデルって」
「うーん、もう着せ替え人形の気分よ。ヘアメイクも着替えもされるがままだし、そのまま写真スタジオに連れて行かれてパシャパシャ撮られて、っていう繰り返し。慣れないことするから疲れちゃった」
「そうなんですね、見てみたかったなあ。明日も撮影するんですよね?」
「そう。今日は白ドレスばかりだったから、明日は披露宴用のカラードレスだって」
「ちょこっと見学しに行ってもいいですか?」
めぐは、だめだめー!と慌てて環奈に首を振る。
「どうしてですか?お昼休みにちょこっとだけ。ね?」
「だめったらだめ。環奈ちゃんに見られてるかと思うと、恥ずかしくて無理!」
「そんなあー。氷室さんだって見たいですよね?彼氏としては、美しい彼女のドレス姿を」
急に話を振られて弦は焦る。
恋人としての演技をしなければ、と頷いた。
「まあ、そうだな」
「でしょう?ね、雪村さん。お願い!ほんのちょっと、遠くから見守るだけですから」
環奈は両手を合わせてめぐに頼み込む。
「いやだって、あちらの都合もあるでしょうし。ドレスの情報解禁とか、そういうのも」
「あー、そっか。それなら長谷部さんに聞いてみてもいいですか?」
「えっ、そ、それは、まあ……」
話の流れで渋々めぐが頷くと、環奈は早速ホテルのバックオフィスに内線電話をかけ始めた。
長谷部に繋いでもらい、何やら楽しそうに話し出す。
「広報課でも色んな情報を把握しておきたいですし、もしお邪魔でなければ少しだけでも。もちろん知り得た内容は口外しませんので。……はい!ありがとうございます。では明日、よろしくお願いします」
電話を終えた環奈がにこにこと顔を上げ、めぐは困ったようにため息をついた。
なんとなく忘れかけた頃、当日を迎える。
「じゃあ氷室くん、申し訳ないけど色々よろしくお願いします」
「ああ、こっちのことは任せてくれ。あとで報告するから」
「ありがとう。それでは行ってきます」
周りの人に挨拶してから、めぐは事務所を出て行った。
弦は今日のスケジュールを確認すると、順番にこなしていく。
年中無休のパークに合わせて、普段から社員はシフト制で勤務している。
めぐと弦のどちらかがオフの日はスケジュールも少なめにしているのだが、今日はもともと二人体制のはずだったから仕事量も多く組んでいた。
それを一人でこなさなければならない。
弦は集中して手際良く済ませていった。
定時近くになり「ただいま戻りました」とめぐの声がして、弦は顔を上げる。
「わあ!雪村さん、すごく綺麗」
環奈が感激したように呟き、弦も驚いて目を見開いた。
朝と同じブラウスとスカートの私服姿のめぐは、髪型とメイクだけが違っていた。
もともと白い肌が更に透き通るようで、目元はくっきりと、頬や唇は華やかに色づいている。
サイドに流した前髪と、毛先を巻いてアップに整えたヘアスタイルで、まるでテレビの中の芸能人が目の前に現れたようだった。
言葉もなく見とれていると、めぐが弦に尋ねる。
「氷室くん、今日はありがとう。大丈夫だった?」
「え……、ああ、大丈夫」
「そう、良かった。旅行雑誌に載せる紹介文、先方のOKもらえた?」
「うん、取り敢えずこれでいこうって。写真を挿入してから文字数を調整することになってる」
「分かった、ありがとう。明日も一人でお願いすることになるんだけど、よろしくね」
「おお、任せとけ」
そしてふと弦は気づいた。
毎日着けてくれているブルースターのネックレスが、めぐの胸元にないことを。
更にめぐが遠い存在になったように感じて、弦は戸惑う。
すると環奈がめぐに話しかけた。
「ね、雪村さん。どんな感じでしたか?ウエディングドレスのモデルって」
「うーん、もう着せ替え人形の気分よ。ヘアメイクも着替えもされるがままだし、そのまま写真スタジオに連れて行かれてパシャパシャ撮られて、っていう繰り返し。慣れないことするから疲れちゃった」
「そうなんですね、見てみたかったなあ。明日も撮影するんですよね?」
「そう。今日は白ドレスばかりだったから、明日は披露宴用のカラードレスだって」
「ちょこっと見学しに行ってもいいですか?」
めぐは、だめだめー!と慌てて環奈に首を振る。
「どうしてですか?お昼休みにちょこっとだけ。ね?」
「だめったらだめ。環奈ちゃんに見られてるかと思うと、恥ずかしくて無理!」
「そんなあー。氷室さんだって見たいですよね?彼氏としては、美しい彼女のドレス姿を」
急に話を振られて弦は焦る。
恋人としての演技をしなければ、と頷いた。
「まあ、そうだな」
「でしょう?ね、雪村さん。お願い!ほんのちょっと、遠くから見守るだけですから」
環奈は両手を合わせてめぐに頼み込む。
「いやだって、あちらの都合もあるでしょうし。ドレスの情報解禁とか、そういうのも」
「あー、そっか。それなら長谷部さんに聞いてみてもいいですか?」
「えっ、そ、それは、まあ……」
話の流れで渋々めぐが頷くと、環奈は早速ホテルのバックオフィスに内線電話をかけ始めた。
長谷部に繋いでもらい、何やら楽しそうに話し出す。
「広報課でも色んな情報を把握しておきたいですし、もしお邪魔でなければ少しだけでも。もちろん知り得た内容は口外しませんので。……はい!ありがとうございます。では明日、よろしくお願いします」
電話を終えた環奈がにこにこと顔を上げ、めぐは困ったようにため息をついた。



