ティーポットで運ばれてきた紅茶はアッサムとセイロンを調合したロイヤルブレンドで、香りも味も本格的だった。
「とっても美味しいです」
「良かった。スコーンもおすすめなのでご一緒にどうぞ」
「ありがとうございます」
ティータイムを満喫していためぐは、ようやく我に返る。
「あの、長谷部さん。お仕事のお話は?」
「ああ、そうでしたね。うっかり忘れるところでした。雪村さんがあまりにも様になるので……」
そう言って長谷部は、取り繕うように書類ケースから冊子を取り出した。
「雪村さん、まずはこちらをご覧いただけますか?」
「わあ、素敵!ウエディングドレスのカタログですか?」
めぐは手渡されたカタログをぺらぺらとめくってみる。
美しいドレスが大きな写真で紹介されていた。
このホテルでの結婚式は、挙式のあとパーク内の好きな場所で写真撮影が出来る。
特にヨーロッパエリアでの撮影は、宮殿をバックにした庭園の中で、ゴージャスなドレスが映えるフォトアルバムに仕上がると人気だ。
「どれもとっても綺麗なドレスですね」
「ありがとうございます。実は今度、新たなコンセプトでドレスを展開することになりまして。大きく3つに分けたテーマごとに、ウエディングドレスとカラードレスをシリーズ展開していこうかと」
「テーマごとに、ですか?」
「はい。可愛らしいイメージの『プリンセスライン』と高貴でエレガントなイメージの『ロイヤルライン』、それからスタイリッシュでモダンな『モードライン』の3つです」
「いいですね、とてもイメージしやすいと思います。カラードレスもこんなにたくさんあるんですね」
めぐは写真を見ながら、うっとりと感嘆のため息をつく。
「はい。このカタログでは、現在二人のモデルさんにお願いしています。可愛らしい雰囲気のモデルさんと、大人っぽくクールな雰囲気のモデルさんです。今後はそれぞれに、プリンセスラインとモードラインのモデルをお願いして、新たにロイヤルラインのモデルを雪村さんにお願いしたいと話しています」
「…………は?」
めぐは真顔に戻って顔を上げた。
「今、私の名前をおっしゃいました?」
「はい。ブライダル部門のスタッフが、ぜひとも雪村さんにロイヤルラインのモデルさんをお願いしたいと」
「いえいえいえ!!」と、めぐは必死に手を振って否定する。
「無理です!だめです!やめましょう」
「どうしてですか?」
「どうもこうも、私はモデルなんてやったことありませんし、マイナスイメージでご迷惑をおかけする訳にはまいりません」
「モデルなら、先日やっていただけたじゃないですか」
「あれは普通のカップルのよくあるデートのイメージでしたから。こんなウエディングドレスのモデルなんて、とてもとても」
ブンブン首を振るめぐに、長谷部は少し首をひねる。
「どうしてそんなにご謙遜を?うちのブライダルスタッフは、ぜひあなたにお願いしたいと満場一致で話していました。私もロイヤルラインは雪村さんにビッタリだと思います」
「いえ、あの。モデル事務所に聞いてみてください。きっと私なんかよりふさわしい方がいらっしゃいますから」
すると長谷部は、急に声のトーンを変えた。
「予算的にモデルは二人しか外注出来ないんですよねえ。限られた予算の中で最善を尽くす、我々は日々その思いでアイデアを練っています。雪村さんの部署もそうではないですか?」
「そ、そう、です。はい」
痛いところをつかれて、めぐは身を縮こめる。
「雪村さんが引き受けてくださると、我々は大いに助かるんですが。ご協力いただけないでしょうか?」
「その……。気持ちはありますが、自信は全くありません」
「ではこうしましょう。とにかく撮影してみて、採用するかどうかは写真を見ながら相談する。これならいいでしょう?」
「えっと、これはだめだとなれば採用されませんよね?」
「もちろんです」
「それなら、はい。分かりました」
小声で頷くと、長谷部はパッと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!ご協力に感謝します、雪村さん」
「いえ、あの。会社の為ですから、いち社員として出来ることはやらせていただきます」
「はい。早速ブライダルスタッフに伝えますね。本当にありがとう!」
こんなに喜んでもらえるならやるしかない、とめぐは覚悟を決めた。
「とっても美味しいです」
「良かった。スコーンもおすすめなのでご一緒にどうぞ」
「ありがとうございます」
ティータイムを満喫していためぐは、ようやく我に返る。
「あの、長谷部さん。お仕事のお話は?」
「ああ、そうでしたね。うっかり忘れるところでした。雪村さんがあまりにも様になるので……」
そう言って長谷部は、取り繕うように書類ケースから冊子を取り出した。
「雪村さん、まずはこちらをご覧いただけますか?」
「わあ、素敵!ウエディングドレスのカタログですか?」
めぐは手渡されたカタログをぺらぺらとめくってみる。
美しいドレスが大きな写真で紹介されていた。
このホテルでの結婚式は、挙式のあとパーク内の好きな場所で写真撮影が出来る。
特にヨーロッパエリアでの撮影は、宮殿をバックにした庭園の中で、ゴージャスなドレスが映えるフォトアルバムに仕上がると人気だ。
「どれもとっても綺麗なドレスですね」
「ありがとうございます。実は今度、新たなコンセプトでドレスを展開することになりまして。大きく3つに分けたテーマごとに、ウエディングドレスとカラードレスをシリーズ展開していこうかと」
「テーマごとに、ですか?」
「はい。可愛らしいイメージの『プリンセスライン』と高貴でエレガントなイメージの『ロイヤルライン』、それからスタイリッシュでモダンな『モードライン』の3つです」
「いいですね、とてもイメージしやすいと思います。カラードレスもこんなにたくさんあるんですね」
めぐは写真を見ながら、うっとりと感嘆のため息をつく。
「はい。このカタログでは、現在二人のモデルさんにお願いしています。可愛らしい雰囲気のモデルさんと、大人っぽくクールな雰囲気のモデルさんです。今後はそれぞれに、プリンセスラインとモードラインのモデルをお願いして、新たにロイヤルラインのモデルを雪村さんにお願いしたいと話しています」
「…………は?」
めぐは真顔に戻って顔を上げた。
「今、私の名前をおっしゃいました?」
「はい。ブライダル部門のスタッフが、ぜひとも雪村さんにロイヤルラインのモデルさんをお願いしたいと」
「いえいえいえ!!」と、めぐは必死に手を振って否定する。
「無理です!だめです!やめましょう」
「どうしてですか?」
「どうもこうも、私はモデルなんてやったことありませんし、マイナスイメージでご迷惑をおかけする訳にはまいりません」
「モデルなら、先日やっていただけたじゃないですか」
「あれは普通のカップルのよくあるデートのイメージでしたから。こんなウエディングドレスのモデルなんて、とてもとても」
ブンブン首を振るめぐに、長谷部は少し首をひねる。
「どうしてそんなにご謙遜を?うちのブライダルスタッフは、ぜひあなたにお願いしたいと満場一致で話していました。私もロイヤルラインは雪村さんにビッタリだと思います」
「いえ、あの。モデル事務所に聞いてみてください。きっと私なんかよりふさわしい方がいらっしゃいますから」
すると長谷部は、急に声のトーンを変えた。
「予算的にモデルは二人しか外注出来ないんですよねえ。限られた予算の中で最善を尽くす、我々は日々その思いでアイデアを練っています。雪村さんの部署もそうではないですか?」
「そ、そう、です。はい」
痛いところをつかれて、めぐは身を縮こめる。
「雪村さんが引き受けてくださると、我々は大いに助かるんですが。ご協力いただけないでしょうか?」
「その……。気持ちはありますが、自信は全くありません」
「ではこうしましょう。とにかく撮影してみて、採用するかどうかは写真を見ながら相談する。これならいいでしょう?」
「えっと、これはだめだとなれば採用されませんよね?」
「もちろんです」
「それなら、はい。分かりました」
小声で頷くと、長谷部はパッと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!ご協力に感謝します、雪村さん」
「いえ、あの。会社の為ですから、いち社員として出来ることはやらせていただきます」
「はい。早速ブライダルスタッフに伝えますね。本当にありがとう!」
こんなに喜んでもらえるならやるしかない、とめぐは覚悟を決めた。



