やがて前菜やスープ、サラダやパンが運ばれてくる。
メインディッシュも魚とお肉のふた皿で、めぐは美味しさに頬を緩めっぱなしだった。

「はあ、なんて優雅なひととき。お料理も凝ってるよね。フランス料理っぽいけど創作料理かな?食べたことない美味しさ。それにボリュームも満点」
「めぐはそこが大事だからな。量が少ないと、満腹にならない!って口尖らせるし」
「ちょっと、私の印象どうなってるのよ?大食いみたいじゃない」
「俺と同じ量を食べるって、女子にしては立派な大食いだ」

そうなの?と、めぐは驚く。

「デートだと女の子はこんなに食べないもんなの?」
「俺の知る限りではな。残す子が多い」
「えー?お料理を残すなんて、そんなこと出来ない。無理してでも食べちゃう」
「めぐの場合は食べたくて食べてるだろ?」
「まあ、そうとも言うわね」

はは!と弦は楽しそうに笑った。

いつものように辻褄合わせの話をしながら料理を食べ終えると、デザートが運ばれてきた。
ショコラケーキとジェラートの周りを、フルーツソースで華やかに彩ってある。

わあ!と目を輝かせためぐは、書かれている「Happy Birthday!」の文字に驚いて顔を上げた。

「僭越ながら、お二人が乾杯されている時に小耳にしまして……。よろしければこちらもどうぞ」

スタッフが控えめにそう言い、小ぶりのホールケーキにロウソクを立ててテーブルに置いた。

「お写真もお撮りしますね。ケーキはお持ち帰りいただくことも出来ますので」

めぐは慌てて頭を下げる。

「お気遣いありがとうございます」
「どういたしまして。お誕生日おめでとうございます」

すると周りの人達も、食事の手を止めてめぐに拍手し始めた。

「あ、そんな。すみません、ありがとうございます」

めぐは恐縮して頭を下げる。

「やだ、もう。なんか注目されて緊張しちゃう」

小声でそう言うと、弦も居心地悪そうに頷いた。

「確かに。俺さ、ここでプレゼント渡すのやめておく。すんごい見られそうだからあとで車の中で渡すわ」
「ありがとう。ごめんね、気を遣わせて」

二人でデザートを食べ終えると、弦がテーブルで会計を済ませる。

「ごちそうさまでした。ありがとう、氷室くん」
「ご満足いただけましたか?めぐさん」
「それはもう!結局サービスのホールケーキもぺろっと食べちゃったね」
「ははっ!スタッフの人びっくりしてたぞ。包もうと思ってたのに、あれ?ない、みたいな」

笑いながら車に戻ると、弦は改めて綺麗にラッピングされた小さな箱をめぐに差し出した。

「はい、誕生日プレゼント。ネックレスで良かったんだよな?」
「えっ!本当にネックレスを買ってくれたの?ごめんね、私が変なこと言い出したばっかりに」
「いや。プレゼント何がいいか迷ってたから、逆に言ってもらって助かった。開けてみて」
「うん、ありがとう」

わくわくしながら、めぐはリボンを解いてケースを開ける。

「わあ、可愛い!」

ブルーの小さな花がまるでブーケのようにいくつか集まって輝いていた。

「このお花って、ブルースターかな?」
「ああ、確かショップの人にそう言われた。その色、うちのロイヤルブルーの制服に合うかと思ってさ」
「うん、確かに合いそうだね。ありがとう!氷室くん。早速着けていい?」
「もちろん」

めぐはそっとケースから取り出し、首の後ろに手を回して着けてみた。
月の光のほのかな明かりの中、胸元で綺麗に輝くネックレス。

「素敵……。本当にありがとう、氷室くん」
「どういたしまして。ブルースターって、花言葉は『信じ合う心』なんだって。なんか俺とめぐの関係にビッタリな気がしてさ」

信じ合う心……と、めぐも呟く。

「そうだね。私も氷室くんのこと誰よりも信頼してる」
「ああ、俺も。けど、あれだな。彼氏でもない男がアクセサリーをプレゼントするって、ちょっといかんな。めぐ、彼氏が出来たらそれは捨てていいから」

ええー!?とめぐは仰け反って驚いた。

「そんなこと出来ないよ」
「だめだ。彼氏は絶対いい気がしないから」
「でもだからって、捨てるなんてそんなこと……」
「それなら俺に返せ。とにかくそのまま持ってるのはだめだ。いいな?」

真剣に念を押されて、めぐは仕方なく頷いた。