更衣室でオフィススーツに着替えてから事務所に行くと、環奈がソワソワと待ち構えていた。

「環奈ちゃん、おはよう」
「雪村さん、おはようござ……、きゃー!指輪」

環奈はめぐの左手を見るなり、目を見開いて頬に手を当てる。

「すっごい、素敵!ってことは、おめでとうございます!」
「ありがとう、環奈ちゃん」
「ああ、良かったなあ。雪村さんと氷室さんがついに!私も自分のことみたいに嬉しいです。すごくヤキモキしたんですからね?コジコジのジレジレだったお二人に」
「環奈ちゃんには色々お世話になりました。ありがとね、私が辛い時に励ましてくれて」
「でも本当に良かったです。私、ちょっと落ち込んでたんですけど、一気に嬉しくなりました」

え?とめぐは首をひねる。

「環奈ちゃん、何かあったの?」
「それが、実は……」

そう言って環奈は声を潜めた。

「私、人事異動で営業課に異動になるんです。産休で抜けた人の代わりに」
「ええ?そんな、いつ?」
「来月からです」
「来月?あと2週間後じゃない」
「はい。もう雪村さんとこうして一緒にお仕事出来なくなるのかと思うと、心細くて……」

驚きつつ、めぐも寂しさに表情を曇らせる。
けれど環奈を前に、自分が気弱になってはいけない。

「環奈ちゃん、いつでもまた会えるよ。社員食堂で一緒にランチしよう?それに営業課の人達もいい人ばかりだし」
「そうなんですけど、やっぱり不安で」
「営業課って、がんばり次第で手当てがグーンとアップするよ。環奈ちゃんなら絶対上手くいくから」
「そんな。何を根拠に?」
「だってバームブラックの占いがよく当たるから」

バームブラック、と環奈は考えを巡らせる。

「そっか!指輪が出た雪村さんが結婚することになったんですもんね。私の金運アップって、営業成績がいいってこと?」
「絶対そうよ。それにね、氷室くんも指輪が出たんだよ」
「そうなんですか?それはもう百発百中!」
「でしょ?環奈ちゃんも絶対当たるよ」
「はい!バリバリ稼いじゃいますよー」
「ふふっ、うん!エステもおしゃれも思う存分出来て、彼とのデートも楽しめるね」
「確かに!ひゃー、色々楽しみ」

ようやく笑顔になった環奈に、良かったとめぐも微笑んだ。