「次はホテルでの撮影です。フロントが忙しくないうちに撮影しちゃいますね。えっと、ホテル支配人の長谷部(はせべ)さんって方が立ち会ってくれることになってるんです」

そう言って環奈はフロントに向かった。
ブラックスーツに華やかなネイビーのスカーフを着けたフロントスタッフの女性が、にこやかに環奈の話を聞き、内線電話をかける。

「すごいね、ホテルスタッフの方って。気品があって洗練された雰囲気で」

めぐの言葉に弦も頷いた。

「そうだな。マナーとか立ち居振る舞いも特別に研修を受けるらしい」

ここ「グレイスフル ワールド」は、パーク内にホテルも備わっている。
ヨーロッパの5つ星ホテルをイメージした高級感溢れる館内は、世界旅行気分のまま宿泊出来るとあってゲストにも人気だ。
客室のゆったりと広いバルコニーから輝くパークの夜景を心ゆくまで眺められ、閉園後もロマンチックな夜を過ごすことが出来る。

環奈の撮影プランでは夜の撮影は今回はナシで、夜景のみの写真を後日別撮りするとのことだった。

「私、泊まったことないんだよね、このホテル。いつか泊まってみたいな」
「俺も。夜のショーや花火もバルコニーから見てみたい。けどいっつも予約が満室だもんな」

めぐと弦がそんなことを話していると、バックオフィスからにこやかな男性スタッフが現れた。
環奈と名刺を交換してから、めぐ達のもとにやって来る。

「雪村さん、氷室さん。こちらホテル支配人の長谷部さんです」

環奈に紹介されて、めぐと弦も名刺を取り出した。

「初めまして、広報課の雪村と申します」
「同じく氷室と申します」

長谷部は名刺を両手で丁寧に受け取ってから挨拶する。

「初めまして、ホテル支配人の長谷部と申します」

物腰の柔らかい長谷部はアップバングの髪型と紳士的な雰囲気ながら、笑顔は爽やかで親しみやすい印象だ。
細身のスタイルで30代前半に見え、ホテル支配人にしては若いなとめぐは思った。

改めて「よろしくお願いします」と挨拶してから、長谷部はめぐ達の先を歩いてエレベーターホールに行く。

「今回お二人にぜひともアピールしていただきたいシチュエーションを選びました。早速スイートルームにご案内します」

ス、スイートルーム!?と、めぐは目を丸くする。

「入っていいんですか?スイートルームに」

すると長谷部はにっこりとめぐに微笑んだ。

「もちろんです。ぜひご覧になった感想などお聞かせください」
「はい、喜んで!」

めぐはわくわくしながらエレベーターに乗り込んだ。