「素敵なところだね。まさにおとぎの国」

ホテルでひと息つくと、二人は早速パークに繰り出した。
弦と手を繋ぎ、めぐはあちこちに目を奪われる。

「しかも氷室くんと初めてのデート!もう夢の世界だね。仕事だけど」
「ははっ!確かにな。でも純粋に楽しもう。端から端まで見て回るぞ」
「うん!早く行こう。アトラクションも楽しそうだよ。それになんと、絶叫マシンがないの!」
「それは良かったな、めぐ」

虹をくぐり星空を飛ぶ魔法のカーペットに乗ったり、美しいお城の舞踏会のショーを観たりと、二人は記録用の写真を撮りながらパークを巡る。
チュロスやポップコーンの食べ歩きメニューやお土産もたくさん買い、湖のほとりにあるレストランでディナーを味わった。

夜のショーと花火も楽しんでから、二人は大満足でホテルの部屋に帰った。

「楽しかったね。うちのパークとはまた違った非日常感。子どもはもちろんだけど、大人も童心に帰って楽しめる……って感じかな?」

パソコンをカタカタと入力しながら、めぐはソファでレポートをまとめる。

「それにほら、マスコットキャラクターのフェアリーちゃん!可愛いよね。グッズも色んなのがあって、子ども達にも大人気だし」
「ああ、そうだな。うちは大人をターゲットにしてるしリアリティーを大事にしてるからマスコットキャラクターはいないけど、やっぱりいるといいな」
「うん。今は私達がゆるキャラ代わりに宣伝活動してるもんね。でもいてくれたらいいなあ」
「ポリシーに反するから難しいかも。けどやっぱり家族連れで遊びに来たら、子どもが楽しめるエリアもあるといいよな。そういった場所限定でキャラクターを作ってもいいかも」
「あ、なるほど」

弦の言葉にめぐは頷く。

「そしたら、例えばだよ?スイスやアルプスのエリアに可愛い女の子のキャラがいたり、オーストラリアにはカンガルーやコアラのグッズを展開したり、とかは?」
「おお、それいいな!その国の雰囲気を壊さずにそういう可愛らしさを入れていくの」
「うん。ロシアのマトリョーシカのお土産も、そのキャラで作ったり」
「いいね。名前はグレイスちゃんとか?」
「あはは!うん、グレイスちゃん。ロイヤルブルーがうちのテーマカラーだから、洋服もその色で。んーっと、こんな感じかな?」

めぐがノートにさらさらと鉛筆で女の子の絵を描くと、弦は眉間にしわを寄せた。

「めぐ……、絵心は壊滅的だな。妖怪にしか見えん。子どもが泣き出しそう」
「えー、酷くない?お口がにっこりしてて可愛いでしょ?」
「怖い、夢でうなされそう」
「ちょっと、氷室くん?」
「まあまあ。アイデアはいいと思うから、企画課に提案しようか」
「うん!うちの新たな魅力になるといいな。明日歓迎セレモニーでフェアリーちゃんに会えるから、色々参考にさせてもらおう」
「そうだな。さてと、そろそろ寝るか」

弦は立ち上がるとめぐの荷物を持ち、リビングに繋がるベッドルームに運んだ。

「めぐがこっちの部屋でいいか?」

振り返ると、めぐは頬を膨らませてむくれている。

「なんだ?あっちの部屋がいいの?」
「違う。氷室くんと同じ部屋がいい」
「一人で寝るのが怖いのか?」
「どうしてそうなるの!おかしいでしょ?私達つき合ってるのに別々の部屋で寝るとか」
「別におかしくないだろ?」
「おかしいもん!」

そう言うとめぐは、ガシッと正面から弦に抱きついた。

「なにそれ?」
「くっつき虫。離れませんから」
「はいー?バカなこと言ってないで……」
「バカじゃないもん!」

めぐは弦が部屋から出て行こうとしても、ピタリとくっついて離れない。
はあ、とため息をついた弦は、ピンとひらめいた。

「めぐ、俺今からシャワー浴びるけど?」

途端にめぐはパッと離れる。
よしっ!と弦はガッツポーズをして「じゃあな」と出て行った。