1月末。
めぐと弦の視察の日がやって来た。
二人はスーツ姿で新幹線に乗り、愛知県のテーマパークへと向かう。

「新幹線なんて、すごく久しぶり。速いねー、静かだね」
「めぐ、ご機嫌だな」
「うん!だって氷室くんと一緒なんだもん。楽しくて仕方ないの。あ、お菓子食べる?」
「ははっ!遠足のおやつだな」

ちょっとしたデート気分を味わっていたが、あっという間に名古屋駅に着き、タクシーに乗り換えて目的地までたどり着いた。

「もう着いちゃったね。って、見て!氷室くん、お城だよ、素敵!」

おとぎ話に出てくるような真っ白な外壁と青い屋根のお城が見えてきて、めぐは目を輝かせる。
早く行こう!と弦の手を引いてエントランスに近づくと、パークの制服を着た女性スタッフが声をかけてきた。

「こんにちは!グレイスフル ワールドの雪村さんと氷室さんですね?」

めぐはパッと弦の手を離して姿勢を正す。

「はい、そうです。初めまして」
「初めまして。私はここフェアリーランドの広報担当、衣笠(きぬがさ)と申します。お二人の滞在中は私がご案内いたしますね」
「雪村と氷室です。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。では早速パークの中へどうぞ」

赤いタータンチェックのロングコートにチロリアンハットを被った衣笠は、小柄でキュートな、まさにおとぎの国の女の子のような雰囲気だった。

「こちらにいらっしゃるのは初めてなんですよね?」

歩きながら衣笠が振り返り、めぐは頷く。

「はい。ずっと来てみたかったんです。うちのグレイスフル ワールドはリアリティーを大切にしているので、こういうファンタジーの世界に憧れていて」
「そうなんですね。そう言っていただけると嬉しいです。グレイスフル ワールドは世界旅行気分を味わえる、リアルなパークですよね。私、いつもテレビで雪村さんと氷室さんを拝見しているので、今日は芸能人にお会いしたような気分です」
「ええ?まさか、そんな」
「本当ですよ、なんだか緊張します。でもお二人ともテレビで見るより更に素敵ですね。憧れちゃうなあ」

頬に手を当ててうっとりする衣笠は、年齢は同じくらいに見えるが仕草がなんとも可愛らしい。
それがまた、このフェアリーランドの雰囲気にも合っている。

メルヘンな街並みに見とれながら歩いていると、やがて大きな宮殿のような建物が見えてきた。

「あちらがキャッスルホテルです。まずはお部屋にご案内しますね。少し休憩してください」
「えっ、あんなに素敵なお城がホテルなんですか?」
「ええ、そうです。お二人にはスイートルームをご用意しました」
「スイートルーム!?そんな、普通のお部屋で構わないです」
「いえ、閑散期なので空きがたくさんありまして。どうせなら1番いいお部屋に泊まっていただきたいのです。グレイスフル ワールドのホテルよりは格が落ちると思いますけど」
「まさか、そんな。可愛らしさに既にやられてます」

めぐがそう言うと、衣笠はふふっと笑う。

「雪村さん、とってもお綺麗なのに気さくな方で安心しました。今日はこのあと、お二人で好きなところを回ってくださいね。明日は歓迎セレモニーがありますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

両パークが友好な関係であることをアピールする為、記念写真を撮ることになっており、めぐも弦もパークの制服を持参していた。

「それでは、こちらがスイートルームです」

ゴージャスな内装のロビーからエレベーターで6階まで上がり、突き当たりの部屋のドアを衣笠が開ける。
中に足を踏み入れためぐは、優雅な雰囲気の部屋と窓の外に広がる景色に感嘆の声を上げた。

「わあ、とっても素敵!ね、氷室くん」
「ああ、そうだな。家具も上質で高級なものばかりだし」

すると衣笠が嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「ありがとうございます。喜んでいただけてホッとしました。ベッドルームは左右に2部屋ありますので、お一人ずつご利用いただけます。それからこちらがパークのパスポートとミールクーポンです。今日は終日ご自由に楽しんでください。もし必要であれば、私も同行しましょうか?」

聞かれてめぐは首を振る。

「いいえ、大丈夫です。衣笠さん、ありがとうございました」
「どういたしまして。何かありましたらいつでもこちらの番号にご連絡ください」

そう言って差し出された名刺を受け取り、めぐと弦も自分の名刺を差し出した。

「わあ、雪村さんと氷室さんの名刺いただいちゃった」

嬉しそうに笑う衣笠は、どこまでもキュートだった。