「……めぐ。めぐ?どうした?」

ハッとしたように身体を起こすと、弦はめぐの顔を覗き込む。

「どうしたんだ、めぐ?何があった?」
「ごめんなさい、何でもないの」
「そんな訳あるか。どうして泣いてる?」
「これは、違うの」

めぐは指先で涙を拭って顔をそらした。
だが弦はめぐの頬に手を当てて、ぐっと顔を寄せる。

「めぐ、言ってくれただろ?これからは何でも素直な気持ちを話すって。教えて、何を考えてたのか」

めぐの目からまた涙が溢れ出す。

「氷室くん……」
「ん?どうした?」
「あの、私、恋愛するのが初めてで、どうしていいか分からないの。彼女ってどうすればいい?ちゃんと出来てる?私、氷室くんが好き過ぎて胸が苦しくて……。氷室くんは余裕があるけど、私はまだまだ大人の恋愛が分からないの」
「めぐ……」

弦は信じられないとばかりに目を見開いてから、めぐを胸にかき抱いた。

「何を言ってる?俺がどれほどめぐを好きか、ちっとも伝わってなかったのか?」
「だって氷室くんから見たら、私なんて恋愛初心者で子どもっぽいでしょう?」
「そんなことある訳ないだろ?俺の理性なんて一瞬で吹き飛ばすほど、めぐは魅力的なのに」
「ほんとに?私、全然経験ないから氷室くんにはつり合わないかも」
「めぐ……」

弦は身体を起こすと、大きく息を吐く。

「ごめん、ちょっと落ち着かせて」
「え、あの……」
「めぐ、なんにも分かってない。めぐほどの素敵な人が俺を好きでいてくれて、最初の恋人が俺だなんて。どんなに嬉しくて幸せで、大切に大切に守りたいと思ってるか。めぐを怖がらせたくない、傷つけたくないって、必死に自分を抑え込んでる。余裕なんて微塵もない。断言する。絶対にめぐより俺の方がめぐを好きな気持ちは大きい」
「えっ、そんなことないよ。私、氷室くんのこと大好きだから。涙が込み上げてくるくらい、好きで好きでたまらないの」
「めぐ……。そんなふうに言ってくれるめぐが、俺の気持ちを更に大きくするんだぞ?2倍も3倍も、俺の方がめぐを好きだ」

真顔で言い切る弦に、めぐは少し不服そうな顔をする。

「でも氷室くんはクリスマスの夜、私から離れて寝てたでしょ?本当は私、ずっとそばにいてほしかった」

弦はこれ以上ないほど目を見張った。

「めぐ……、ちょっと、はあ、もう無理だ」
「無理!?無理って何が?私が無理なの?」
「違う!逆だ。めぐがそばにいて、手を出さない自信なんてまるでない。だから物理的に離れるしかなかったんだ」

……え?と、めぐは首を傾げる。

「あーもう、これ以上言わせるな!いいか?めぐ。襲われたくなかったら俺から離れてろ」
「ええ?」

弦は顔を真っ赤にしながら、手で口元を覆ってうつむいた。
ソファからストンと降りて床にあぐらをかく。

「めぐ、ほら。お腹空いただろ?食べよう」
「あ、うん。そうだね」

めぐもソファから降りて弦の隣に正座しようとすると、弦はめぐの手を取ってテーブルの反対側に座らせた。

「じゃあ、いただきます」
「あ、うん。いただきます……」

チラリと様子をうかがうめぐの視線を交わしながら、弦はパクパクとうつむいたまま食べ始めた。