忙しいゴールデンウィークが過ぎ、パークの様子も少し落ち着いた頃、めぐと弦はホームページや広告の為の宣材写真を撮ることになった。
パークを楽しむ恋人同士のコンセプトで、手を繋いだり見つめ合った写真を撮るとのこと。

撮影モデルはきちんとモデル事務所に外注した方が……と課長に提案してみたが、せっかく美男美女のカップルがここにいるのに、わざわざ頼まなくてもいいじゃないかと言われた。

よく晴れた日に、撮影プランを考えた環奈が同行して撮影が始まる。

「でもさ、モデルを外注しなかったのはお金をかけなくて済むからだよね、きっと」
「まあ、そうだろうな」

めぐと弦は手を繋ぎ、パーク内を歩きながらそんなことを話す。
二人とも私服姿で、めぐは白のクロップドパンツに水色のチュニック、弦はブルージーンズにオフホワイトのジャケットを合わせていた。

「雪村さんも氷室さんも、楽しそうに笑顔でお願いします!」

環奈に言われて思わず苦笑いする。

「確かに恋人同士には見えないよね、こんな会話してたら」
「そうだな。よし、めぐの練習も兼ねて今日は本物カップルやるか」
「本物カップルのフリ、だよね?」
「まあ、そうだけど。これも仕事だしな」
「分かった、がんばる!」

めぐは気合いを入れると、弦を見上げてにっこり笑いかけた。

「弦くん、次はどこに行く?」
「ウゲッ!」
「ちょっと、またそれ?」

途端に真顔に戻っためぐは、ジロリと弦を睨む。

「ごめん、油断してた。次は大丈夫。よし来い!」
「そんな、格闘技じゃないんだから」
「これでどうだ!」

そう言って弦はめぐの肩を抱き、顔を寄せた。

「ギャー、近い!ちょっと、なんのつもりよ?」
「おい、暴れるなって。仕事だろ?」

その時カメラマンの後ろにいた環奈が、我慢ならないとばかりに声をかけてきた。

「もう!お二人とも、ちゃんとラブラブしてください」

うっ……と二人は、恥ずかしさに顔をしかめる。

「じゃあこちらから指示しますね。その建物をバックにして見つめ合ってください」

環奈の言葉に、仕方ないとばかりに二人は立ち止まって見つめ合う。
またしても環奈の声が飛んできた。

「にらめっこじゃないんですから!ちゃんと微笑み合ってください」

今度はニヤリと不敵な笑みを浮かべるめぐと弦に、環奈は頭を抱える。

「はあ、もう。ほんとに恋人同士なの?」

途端にめぐと弦は、ヤバイ!と顔を見合わせた。

「環奈ちゃん、ごめんね。ほら、私達こういうの慣れてなくて恥ずかしくて……」

めぐが取り繕うと、環奈は納得したように頷く。

「まあ、そうですよね。撮影なんて照れちゃいますよね」
「そうなのよ」
「じゃあプランは変更して、先にナチュラルショットを撮りますね。ヨーロッパエリアにあるフランスのカフェでお茶するシーンです。早速行きましょ!」
「うん」

歩き始めると、めぐは嬉しそうに弦に笑いかけた。

「仕事なのに役得だね!私、あのカフェのモンブラン大好きなんだ」
「おいおい、ケーキが出てくる前提かよ。コーヒーだけかもよ?それか、食べずに写真だけ撮って終了」
「ええー?まさかのおあずけ?」

すると弦は「分かったよ」と言って、カメラマンと一緒に先を歩く環奈に声をかける。

「おーい、環奈!自腹でモンブラン頼んでもいいか?」
「あっ、ケーキも紹介したいのでお二人分用意しますよ。モンブランと何がいいですか?」

めぐは、やったー!と満面の笑みを浮かべた。

「じゃあね、ミルフィーユ!あ、ガトーショコラもいいな。エクレアも捨てがたいよね」
「おい、めぐ。俺の分だぞ?」
「あ、そっか。あはは!氷室くんにはガトーショコラが似合うんじゃない?」
「さては半分食べる気だろ」
「よくお分かりで」

そんなことを言っているうちに、フランスの町並みが広がるエリアに着いた。
カフェのテラス席でエスプレッソとケーキを味わう。
モンブランとガトーショコラを嬉しそうに頬張るめぐと、笑顔で見守る弦の自然なショットが撮れて、環奈は満足気に頷いた。