「本日はカウントダウンイベントも開催され、鮮やかな花火が新年を祝福します。皆様もどうぞご一緒に、新しい一年をここグレイスフル ワールドで迎えましょう!ご来園を心よりお待ちしております」
「カウントダウン、盛り上がりそうですね!楽しみです。皆様、どうぞ今からグレイスフル ワールドへお越しください。雪村さん、氷室さん、本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
「以上、グレイスフル ワールドから中継でお伝えしました」

はい、OK!と声がかかり、めぐ達はホッと肩の力を抜く。
クルーを出口で見送ると、二人で事務所へと引き返した。

「これで年内の取材は全て終了だよね?やったー!」
「ああ。だけど明日から年明け最初の取材があるぞ」
「なんてスパンの短い仕事納めと仕事始め」
「ははは!まあ、いいじゃないの。さてと、事務所に帰ったらカウントダウンイベントのスタッフ配置について確認しよう」
「そうだね。企画課の人達、イベントの仕切りに関してはすっかり氷室くんに頼っちゃってるよね。あのクリスマス以来」
「でも今回のカウントダウンイベントは中央広場でやるから、そこまでごった返すことはないと思うけどな」

そんなことを話しながら更衣室に行き、制服を着替えてから事務所に戻った。

「ただ今戻りました」
「おお、ご苦労様。雪村さん、氷室くん、ちょっといいかな?」
「はい」

課長に呼ばれて、なんだろう?と首を傾げてから二人でデスクに行く。

「実はね、1月の閑散期にテーマパークの交換視察を行うことになってね」
「交換視察、ですか?」

聞き慣れない言葉に、めぐも弦もピンと来ない。

「そう。国内のテーマパーク同士オープンに意見交換して、業界を共に盛り上げていこうという流れになってね。ここにも九州のテーマパークから社員が数人視察に来るんだが、うちからは愛知のテーマパークに視察を派遣することになった。それを雪村さんと氷室くんにお願いしたい」

ええ?と二人で声を揃えて驚く。

「私達が、ですか?」
「ああ。二人はいわばグレイスフル ワールドの顔だろう?パークのことをよく知っているし、どんなふうに見られているか、どうすればもっと良くなるかという客観的な視点も持ち合わせてる。君達以上の適任はいないと部長もおっしゃっていた。どうかな?引き受けてくれる?」
「それは、はい。お力になれるのでしたら」
「そう、じゃあ早速出張の手配してね。これが詳細」
「ありがとうございます」

課長から資料を受け取り、二人は実感が湧かないままデスクに戻って顔を見合わせた。

「これって、私と氷室くんが二人で愛知に出張に行くってこと?」
「そうだな。しかも泊まりがけで」

そう言うと弦はニヤリと口元を緩めた。

「めぐと泊まりだぜ?二人きりの旅行だぜ?」
「ちょっと、出張だからね?」
「そう。行きも帰りも一緒のな」
「だから、仕事だよ?」
「分かってるよ。ずっと二人一緒でな」
「もう!ほんとに分かってるの?」

すると向かいの席から環奈が手を差し出してきた。

「ちょいちょいちょーい!そこのお二人!仕事中にコソコソいちゃつかなーい!まったくもう、コジコジ終わったら途端にイチャイチャですか?」

「あ、はい、すみません」と二人は慌てて離れる。
クリスマスの翌日に、「なんだかお二人ラブラブしてません?」と環奈にはあっさりばれてしまっていた。

「まあ、いいですけどね。目の保養になるし、何より雪村さんが幸せそうで私も嬉しいです」
「環奈ちゃん……。ありがとう、ずっと私を励ましてくれて」
「いいえ。ね、雪村さん。ハロウィンの占い、当たりましたね?」
「え?」

突然何の話かとめぐは首をひねる。

「ほら、バームブラック食べた時に中から指輪が出てきたでしょ?」
「ああ!うん。あの指輪、今もキーケースにつけてるよ」
「それなら尚更効果バツグン!雪村さん、近々結婚出来ますよ」

あ、そっか、とめぐは思い出した。
そしてテレビ収録の際、弦も指輪が出たことも……。

(それってつまり、私達……?)

思わずそっと弦に視線を送ると、弦もチラリとめぐを見た。

「やだっ!今度はテレテレカップル?もう、真冬なのに暑すぎる!」

環奈に言われて、めぐは慌てて前を向く。
出張の資料に目を通しながら、既にドキドキと胸を高鳴らせていた。