「長谷部さん」
ふいに聞こえてきた声に、長谷部は顔を上げる。
予約した全てのゲストがチェックインを終え、人心地ついてからフロントで事務処理をしているところだった。
「雪村さん!」
思わず笑顔を浮かべたが、めぐが手にしているバラの花を見てハッとした。
(もしかして……)
考えたくないが、逃げる訳にもいかない。
めぐはすぐ目の前までやって来ると、真剣な顔で口を開いた。
「長谷部さん、今夜も色々とありがとうございました。おかげでショーを無事に終えることが出来ました」
「……こちらこそ」
なんとか声を振り絞る。
このあとに何を言われるのかと、緊張感に包まれた。
「これまで私を助けてくださったことも、本当に感謝しています。怪我をした時も、一人で心細かった時も、長谷部さんのお気遣いが嬉しかったです」
「いえ、大したことはしていません。私がしたくて勝手にやったことです」
「長谷部さんのお気持ちはとてもありがたいです。だけど、私はもう大丈夫です。やっと自分の気持ちに気づくことが出来たので」
「そうですか」
驚きよりも、やはりそうかという気持ちが大きい。
きっと自分でも分かっていたのだ。
最初から勝ち目はないと。
「長谷部さん、このバラはお返しします。あなたのお気持ちは受け取ることが出来ません」
そう言って差し出された花瓶を、静かに受け取る。
ふと見ると、めぐの胸元にはブルースターのネックレスがあった。
「雪村さん。あなたにはダイヤモンドと赤いバラが似合うと思っていました。でも違ったんですね。あなたはバラよりも、素朴で小さな花を大切にする人。そしてそんなあなたを誰よりもよく知っているのは、氷室さんただ一人」
するとめぐはネックレスに手をやり、ブルースターのように可憐な笑みを浮かべる。
「はい。この花は私の宝物です」
「そうですか。あなたと氷室さんは結ばれるべき運命の相手だったのだと思います。やっと気持ちが通じ合ったのですね。良かったですね、雪村さん」
「ありがとうございます」
「さあ、もう遅いのでお部屋へ。おやすみなさい、雪村さん」
「はい。お仕事がんばってくださいね、長谷部さん」
優しい笑みを浮かべてから去っていくめぐを見送り、長谷部は大きくため息をついた。
(良かったですね、か……。我ながら強がって)
ふっと笑みをもらしてから、バラの花を見つめる。
「やっぱり雪村さんはバラだな。俺には不釣り合いな高嶺の花だ」
そう呟くとバックオフィスに行き、花瓶を置いた。
ふいに聞こえてきた声に、長谷部は顔を上げる。
予約した全てのゲストがチェックインを終え、人心地ついてからフロントで事務処理をしているところだった。
「雪村さん!」
思わず笑顔を浮かべたが、めぐが手にしているバラの花を見てハッとした。
(もしかして……)
考えたくないが、逃げる訳にもいかない。
めぐはすぐ目の前までやって来ると、真剣な顔で口を開いた。
「長谷部さん、今夜も色々とありがとうございました。おかげでショーを無事に終えることが出来ました」
「……こちらこそ」
なんとか声を振り絞る。
このあとに何を言われるのかと、緊張感に包まれた。
「これまで私を助けてくださったことも、本当に感謝しています。怪我をした時も、一人で心細かった時も、長谷部さんのお気遣いが嬉しかったです」
「いえ、大したことはしていません。私がしたくて勝手にやったことです」
「長谷部さんのお気持ちはとてもありがたいです。だけど、私はもう大丈夫です。やっと自分の気持ちに気づくことが出来たので」
「そうですか」
驚きよりも、やはりそうかという気持ちが大きい。
きっと自分でも分かっていたのだ。
最初から勝ち目はないと。
「長谷部さん、このバラはお返しします。あなたのお気持ちは受け取ることが出来ません」
そう言って差し出された花瓶を、静かに受け取る。
ふと見ると、めぐの胸元にはブルースターのネックレスがあった。
「雪村さん。あなたにはダイヤモンドと赤いバラが似合うと思っていました。でも違ったんですね。あなたはバラよりも、素朴で小さな花を大切にする人。そしてそんなあなたを誰よりもよく知っているのは、氷室さんただ一人」
するとめぐはネックレスに手をやり、ブルースターのように可憐な笑みを浮かべる。
「はい。この花は私の宝物です」
「そうですか。あなたと氷室さんは結ばれるべき運命の相手だったのだと思います。やっと気持ちが通じ合ったのですね。良かったですね、雪村さん」
「ありがとうございます」
「さあ、もう遅いのでお部屋へ。おやすみなさい、雪村さん」
「はい。お仕事がんばってくださいね、長谷部さん」
優しい笑みを浮かべてから去っていくめぐを見送り、長谷部は大きくため息をついた。
(良かったですね、か……。我ながら強がって)
ふっと笑みをもらしてから、バラの花を見つめる。
「やっぱり雪村さんはバラだな。俺には不釣り合いな高嶺の花だ」
そう呟くとバックオフィスに行き、花瓶を置いた。



